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5.文化祭

文化祭当日。 やはり興味はないので前年と同じで生物準備室で勉強しようと行くと、武原に大量の食券を握らされた。 「焼きそば、たこ焼き、アメリカンドッグ、……あと、なんだっけかな。 とにかく交換してこい」 「は?」 意味がわからなくて手の中の食券と武原の顔を見比べてしまう。 「生徒たちに押しつけられたんだ。 めんどくさいからおまえが交換してこい」 「なんで僕が」 武原ひとりで食べきれるとは思えない、食券の枚数。 しかもそれを、僕が交換に行くなんて理解できない。 「苦手なんだ、人混み。 命令だ、さっさと行け」 「えっ、あっ!」 無理矢理、部屋の外に追い出され、ぴしゃっとドアを閉められた。 「ちょっ、開けてください!」 「……」 ドンドン、ドアを叩いたって返事はない。 鍵までかけられたのか、開けようとしたけど無理だった。 「……はぁーっ」 食券を手に、途方に暮れてしまう。 ほかの場所で勉強しようにも、生物準備室の中にノートも参考書も、それどころか財布やなんか、鞄ごと置いたまま。 人質を取られては仕方ないので、さっさと食券を引き替えて戻ることにした。 校内は異空間になっていた。 一昨日の準備が始まる前とはまるっきり違う。 ……文化祭ってこんなんなんだ。 去年は生物準備室にこもっていたから知らなかった。 廊下は普通の生徒もいれば、仮装をした生徒もいる。 執事はわかるが、男子校でメイドは理解できない。 気になってちらりと教室を覗いてみる。 「お帰りなさいませ、ご主人様」 ごついうさ耳メイドがひらひらスカートを摘んで挨拶して、吹きそうになった。 「おひとり様、ご案内」 「えっ、僕は!」 慌てたけれど、強引に席に座らせた。 財布も持ってないのにどうしよう。 「あの、僕、財布置いてきて……」 「ん? あ、その食券使えるから」 席に案内したごついメイドが僕の手の中から食券を抜き取るとそこには、【メイド喫茶 ラビたん】と書いてあった。 ……ああ、うん。 だからうさ耳なのね。 出てきたケーキセットを仕方ないので食べる。 ……ううっ。 食券を無断で使ってしまった。 この分はお金を武原に払おう。

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