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第7話
堪らず立ち上がろうとするが、部屋は真っ暗だ。どこに出雲がいるのかさえ、よく見えない。
「いや、大丈夫……その場所で座ってて」
「う、うん……っ」
俺は内心、かなりハラハラしている。
いくら自分の部屋とは言え出雲はさっきまで、光が激しく点滅するような画面を見ていたんだ。たぶん俺よりも、暗闇に目が慣れていないだろう。
それでも、言われた通りに出雲が来るのを待つことしかできない俺は、黙って座り込む。
「あ、壁だ……照、ちょっと喋ってみて」
「あー、あーっ!」
「そんなに張り上げなくても大丈夫だけど、把握したわ」
頭上から、出雲の声が聞こえた。
隣を見ると、出雲の脚が見える。
かなり近いところまで、出雲が来てくれたらしい。俺は妙にホッとして、顔を上げようとした。
すると……視界に、出雲の顔が映る。
――至近距離で。
「見つけた」
出雲は、笑顔だ。
俺を見つけてホッとしたのか、気の抜けた笑顔で俺を見下ろしている。
俺の脚を踏まないように気を配ってくれているのか、出雲はゆっくりと俺の近くに座った。
「このくらい近いと、顔が見えるな」
そう言って笑った出雲に、俺は――。
――笑い、返せない。
「…………っ!」
大好きな出雲が、すぐ近くに居る。
大好きな笑顔が、触れられる距離で見えているんだ。
暗闇の中、俺の傍に座った出雲に……ドキドキしないわけ、ない。
ソファで隣同士に座った時とは違う、緊張感だ。
暗い中、二人きりで……予想外の接近に、俺はポーカーフェイスを気取れない。
「……照?」
「っ!」
出雲が、目を丸くしている。
不思議そうに、俺の名前を呼んでいるじゃないか。
――冷静になって考えて。
俺には、出雲がどんな顔をしているか見えている。
なら……逆は?
「……どう、した?」
驚いたような、分かっていないような、戸惑っているような声で、出雲は呟く。
それなのに俺は、何も言えない。
ただ小さく震えて、息を呑むことしかできないのだ。
――出雲が、近い。
その事実だけで、顔がどんどん熱くなって、背中には変な汗が伝っている。
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