7 / 10

第7話

 堪らず立ち上がろうとするが、部屋は真っ暗だ。どこに出雲がいるのかさえ、よく見えない。 「いや、大丈夫……その場所で座ってて」 「う、うん……っ」  俺は内心、かなりハラハラしている。  いくら自分の部屋とは言え出雲はさっきまで、光が激しく点滅するような画面を見ていたんだ。たぶん俺よりも、暗闇に目が慣れていないだろう。  それでも、言われた通りに出雲が来るのを待つことしかできない俺は、黙って座り込む。 「あ、壁だ……照、ちょっと喋ってみて」 「あー、あーっ!」 「そんなに張り上げなくても大丈夫だけど、把握したわ」  頭上から、出雲の声が聞こえた。  隣を見ると、出雲の脚が見える。  かなり近いところまで、出雲が来てくれたらしい。俺は妙にホッとして、顔を上げようとした。  すると……視界に、出雲の顔が映る。  ――至近距離で。 「見つけた」  出雲は、笑顔だ。  俺を見つけてホッとしたのか、気の抜けた笑顔で俺を見下ろしている。  俺の脚を踏まないように気を配ってくれているのか、出雲はゆっくりと俺の近くに座った。 「このくらい近いと、顔が見えるな」  そう言って笑った出雲に、俺は――。  ――笑い、返せない。 「…………っ!」  大好きな出雲が、すぐ近くに居る。  大好きな笑顔が、触れられる距離で見えているんだ。  暗闇の中、俺の傍に座った出雲に……ドキドキしないわけ、ない。  ソファで隣同士に座った時とは違う、緊張感だ。  暗い中、二人きりで……予想外の接近に、俺はポーカーフェイスを気取れない。 「……照?」 「っ!」  出雲が、目を丸くしている。  不思議そうに、俺の名前を呼んでいるじゃないか。  ――冷静になって考えて。  俺には、出雲がどんな顔をしているか見えている。  なら……逆は? 「……どう、した?」  驚いたような、分かっていないような、戸惑っているような声で、出雲は呟く。  それなのに俺は、何も言えない。  ただ小さく震えて、息を呑むことしかできないのだ。  ――出雲が、近い。  その事実だけで、顔がどんどん熱くなって、背中には変な汗が伝っている。

ともだちにシェアしよう!