8 / 10

第8話

 固まってしまった俺に、出雲がそっと手を伸ばす。 「照――」  俺はその手を、反射的に……払いのけた。  『パンッ』という乾いた音がして、ハッと我に返る。 「ご、ごめんッ!」  出雲は、驚いたような顔のままだ。  ただ目を丸くして、俺を見ている。  こんな時、いつもなら軽い冗談を言って誤魔化せるのに……いつもどうしていたのか、思い出せない。  頭の中が、真っ白になる。  ただ、出雲が好きってことしか……分からない。 「お、俺……ご、ごめん、出雲……ッ」 「いや、別に――」 「本当にごめんッ! 俺、俺……ッ!」  出雲の手を、力一杯払いのけてしまったことに対してなのか、それとも……自分の口から出ている謝罪の言葉が何に対してなのか、それすらも分からなかった。  それでも、謝らなくちゃいけない気がする。  俺は出雲から視線を逸らして、俯きながら何度も謝罪の言葉を口にした。 「ごめん、出雲……俺、本当にッ!」 「照、落ち着けって……どうしたんだよ、急に……」 「出雲……ッ」  勝手に、涙が溢れる。  親友として、ずっと一緒に居た。出雲にとって俺は、いい親友だったと思う。  ――だけど、本当は違う。  出雲のことが大好きで、結果的に出雲を騙していた。  隠し通せる自信は、ずっとあったんだ。  今だって、もっともらしい言い訳をしたり、冗談を言えばそれで済む。  なのに、出雲に赤くなった顔を見られただけで……言葉を失っている。  それだけ、アクシデントに弱い俺が……これから先も、出雲に隠し通せるのか。  ――俺の中にあった自信が、音を立てて崩れていく。  突然泣き出した俺に向かって、出雲が近寄る。 「……何で、泣くの?」  出雲の手が、俺の頭に触れた。 「ごめん、ごめん……ッ」 「何に対して謝ってるの?」 「今、俺……出雲に……ッ」  出雲が優しく頭を撫でてくるから、更に涙が溢れてくる。  これは、泣いている親友をあやす為にしてくれていること。  そんなの分かっているのに、嬉しくなっている自分が嫌だ。  これ以上、出雲を裏切りたくない。  俺は自分の右手を力一杯握って、絞り出すように呻いた。 「嘘、吐いてる……ごめん……ッ」  出雲の手が、止まる。  たったそれだけのことが、こんなにも怖い。  気持ちを伝える勇気なんて、俺には無いんだ。だから、出雲に肝心なことは言えない。

ともだちにシェアしよう!