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第8話
固まってしまった俺に、出雲がそっと手を伸ばす。
「照――」
俺はその手を、反射的に……払いのけた。
『パンッ』という乾いた音がして、ハッと我に返る。
「ご、ごめんッ!」
出雲は、驚いたような顔のままだ。
ただ目を丸くして、俺を見ている。
こんな時、いつもなら軽い冗談を言って誤魔化せるのに……いつもどうしていたのか、思い出せない。
頭の中が、真っ白になる。
ただ、出雲が好きってことしか……分からない。
「お、俺……ご、ごめん、出雲……ッ」
「いや、別に――」
「本当にごめんッ! 俺、俺……ッ!」
出雲の手を、力一杯払いのけてしまったことに対してなのか、それとも……自分の口から出ている謝罪の言葉が何に対してなのか、それすらも分からなかった。
それでも、謝らなくちゃいけない気がする。
俺は出雲から視線を逸らして、俯きながら何度も謝罪の言葉を口にした。
「ごめん、出雲……俺、本当にッ!」
「照、落ち着けって……どうしたんだよ、急に……」
「出雲……ッ」
勝手に、涙が溢れる。
親友として、ずっと一緒に居た。出雲にとって俺は、いい親友だったと思う。
――だけど、本当は違う。
出雲のことが大好きで、結果的に出雲を騙していた。
隠し通せる自信は、ずっとあったんだ。
今だって、もっともらしい言い訳をしたり、冗談を言えばそれで済む。
なのに、出雲に赤くなった顔を見られただけで……言葉を失っている。
それだけ、アクシデントに弱い俺が……これから先も、出雲に隠し通せるのか。
――俺の中にあった自信が、音を立てて崩れていく。
突然泣き出した俺に向かって、出雲が近寄る。
「……何で、泣くの?」
出雲の手が、俺の頭に触れた。
「ごめん、ごめん……ッ」
「何に対して謝ってるの?」
「今、俺……出雲に……ッ」
出雲が優しく頭を撫でてくるから、更に涙が溢れてくる。
これは、泣いている親友をあやす為にしてくれていること。
そんなの分かっているのに、嬉しくなっている自分が嫌だ。
これ以上、出雲を裏切りたくない。
俺は自分の右手を力一杯握って、絞り出すように呻いた。
「嘘、吐いてる……ごめん……ッ」
出雲の手が、止まる。
たったそれだけのことが、こんなにも怖い。
気持ちを伝える勇気なんて、俺には無いんだ。だから、出雲に肝心なことは言えない。
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