28 / 56

02

「言ったでしょ、この時間帯は誰もいないって。次来るのはたいてい旺二郎なんだけど、旺二郎が来るまでまだ時間があるから、それまで一志さんを堪能させて」 「ん、ンん……ッま、っ、いつき、まっ、て、……ッ」 「待てない、だって、そんなに時間ないもん。一分一秒でも長く一志さんを堪能したい」 「ば、どこ、なめ、っ……ッぁ……っんな、とこ、さわっ……っぁ、んんッ……!」  ちゅくちゅく耳の入り口を執拗に舐めながら、細い腰からキュッと上がっている小ぶりなお尻に手をゆっくりと下ろしてやわく揉みしだく。  胸やお尻に興味はなかったし、しいて言えば足派だけれど、それでも女性の体に興奮を覚えたことはない。同級生たちが「あいつ走るとおっぱい揺れるんだよな」「マジエロいわ」と言っているのを冷めた目で見つめてしまうほどに、どうだってよかった。だけど、一志さんは別だ。敏感すぎる乳首も小ぶりなお尻も、なめらかな太腿も、一志さんのすべてが、僕の理性をたやすく崩壊させる。その上女の子より可愛い声を上げると来た、じりじりと僕の欲望に火が点いてしまう。 「っぁ、あっ……い、つきぃ……もっ、むり、っ、それ、やめ、ッ……ぅ、ぁん……ッ!」  じゅぷじゅぷとわざと激しく音を立てて、一志さんの耳の奥から入り口までを抽挿を繰り返すたびに、ビクビクと腰を震わせてすがるように背中にしがみついてくる。僕が一志さんをぐちゃぐちゃに犯しているのに、その僕に助けを求めてくるなんて最高に可愛い。めちゃくちゃにしたくなる――あー、自重しろ、広尾五喜! とりあえず変格活用を唱えて落ち着こう。  ちゅぽん、と耳の中から舌を引き抜いて一志さんを見つめると、とっろとろに蕩けた瞳でぼんやりと僕を見上げ「っは、ぁ、……こ、こ、学校だぞ、ばか……っ」背中を叩いて、睨んでくる。その蕩けた瞳で睨んでいるつもりなのかな、可愛すぎるでしょ。  でも、確かに一志さんの言うとおり、ここは学校だ。二人きりといえど、僕たちは生徒と教師。ただの広尾五喜と神谷一志ではない。欲望のまま、一志さんに触れるのは痴漢と一緒。たとえ一志さんが気持ちよくなっていようと、今の僕は痴漢そのものだ。一志さん可愛さのあまり入ってしまった雄のスイッチを切らなければと、一志さんの体を抱きしめた。一志さんのえっちな顔が見えなければ、少しずつ理性が戻ってくるはずだから。 「ごめんね、一志さんがえっちすぎてうっかりスイッチ入った反省しています」 「……えっち、って、馬鹿、俺は別に、えっち、じゃない」 「自覚が足りないなぁ、今の一志さんなんて誰にも見せたくないほどえっちな顔してるよ。とろとろに蕩けちゃって、たまんない。あー、もう、可愛い、好き、大好き、早く僕のものになってよ」  僕のものになったら、朝から晩まで可愛がって、愛して、離さないから。  ぎゅうぎゅう抱きしめて、ふわふわの髪に顔を埋める。相変わらず気持ちよくて、いい匂いだ。ずっと顔を埋めていたくなる。キスもしたくなる。だけど、キスをしたら止まらなくなるから、広尾五喜、待て、だ。 「……五喜のほうが、えっちな顔してるぞ」 「一志さんがほしくてほしくてたまらないって顔でしょ、知ってる」  ゆっくり一志さんから離れると、僕のとなりの席に座らせてから、自分も腰を下ろす。この距離感なら、旺二郎が教室に入ってきても優等生と教師に見えるはずだ。 「そういえば、旺二郎はそんなに早く学校に来てるのか。あいつ、早起きは苦手な方なんだが」 「四信さんの自主練につき合ってるみたいだよ。あれは完全に四信さんに惚れてるね」  出会った頃はとにかく自信がないヘタレだった旺二郎が、四信さんの影響を受けて変わった。口を開けば「四信先輩」の話ばかりだし、そのたびに七緒の心が死んでいくような気がした。聡い七緒のことだ、旺二郎の気持ちにはもちろん気がついているはずだ。それなのに、旺二郎と四信さんが距離を縮めていく様を肌で感じながら、いつもと同じようにへらへらと笑っている。七緒だけが気づいている歪な三角関係だ。 「えっ、旺二郎が上野に……旺二郎はいつも受け身で自分から誰かを好きになるタイプじゃなかったんだが、そうなのか、なんだか嬉しいな」  しみじみと嬉しげに呟く一志さんはすっかりブラコンの顔をしている。お兄さん顔をしている一志さんを前にして、実は三角関係だなんて言えない。僕って一志さんに甘いなぁとにっこり微笑んでいると、一志さんは眉根を寄せて「どうしてそんなににこにこしているんだ」とじとっと僕を睨む。やっぱり一志さんの睨み顔ってたまらなくそそる。ますます口角が上がってしまう。 「お兄さん顔している一志さんって可愛いなぁって思って。ちなみに僕も今までは受け身タイプだったんだよね、自分から好きになったのは一志さんが初めてだし、これから先も一志さんだけが好きだよ。僕には一志さんしか見えないから」  恋愛の意味で誰かを好きになることは一生ないと思っていた。広尾家の次男坊としての結婚をするだろうから、恋愛は僕と無縁のものだと。だけど、一志さんと出会って、僕の世界は色づいた。  一志さんは困ったように眉を下げる。ここは学校、今は教師、どう反応を返せばいいのか困るのも当然だろう。それでも、僕の言葉が嫌ではないと思っているのか、一志さんの表情からは少し照れが滲んでいた。

ともだちにシェアしよう!