39 / 56

五年も待つな_08

 気がついたらカーテンの隙間から朝日が差し込んでいた。本当に、朝まで夢中で一志さんを抱いていたのだと実感した。  あまりにもお互いの体がどろどろで、このまま眠るわけにもいかないと、くたくたの一志さんを抱いてお風呂場へ向かう。こんなに明るいところですみずみまで見られるのは無理だとあまりに可愛いことを言うから、また息子が元気になった。若さって怖い。「もう終わりだって、さっき、五喜が言っただろ」と泣き叫ぶ一志さんをお風呂場でも散々愛してから、どろどろだった体を綺麗に洗い流した。恥ずかしがる一志さんにちょっと意地悪を言いながら、それはもうすみずみまで綺麗に。  主に僕のせいで力がまったく入りそうにない一志さんにスウェットを着せてあげて(下着を履かせる時のものすごく恥ずかしそうな顔といったら、最高だった。また勃起するかと思った、ぶっちゃけちょっとした)またお姫様抱っこをして、冷蔵庫の中からミネラルウォーターを取り出してから寝室へと向かった。 「……お前、絶倫すぎないか。いつもなのか」 「むしろ淡白なほうだったんだけどなぁ、一志さんにだけ絶倫だよ」  一志さんを優しくベッドに下ろすと、一志さんは恥ずかしそうに眉尻を下げ僕を見上げてくる。にっこり微笑んで、ミネラルウォーターを一志さんに渡してから、となりに潜り込んだ。 「平日は駄目だ、しない」  こくこくと喉を動かし、一志さんはミネラルウォーターを飲むとはっきりと僕の目を見て言った。  鈍器で頭を殴られたような衝撃が走り「なんで」と思わず声を上げる。 「な、なんでって、今日みたいに求められたら、体がもたない」 「わかった、平日は一回だけにする」 「一回ですむのか」 「……ドリョクシマス」  思わず片言になると、一志さんは小さく笑い、僕にミネラルウォーターを差し出してくる。残りを飲み干して、サイドテーブルに置く。「間接キスだね」「……お前は、本当にもう」間接キスよりもっといやらしいことをしたのに、いちいち恥ずかしがる一志さんが可愛くて、ちゅっと触れるだけのキスをした。 「夢じゃないんだよね、本当に。あー、幸せ、一志さん好きだよ、大好きだ。ずっと僕のとなりで、僕が一志さんにふさわしい男になる様子を見ていてよ」  今はまだ十六の高校生だけど、もっと努力して一志さんのとなりにいて恥ずかしくない男になるから。  一志さんの頭の下に腕をくぐらせ、ぎゅっと抱き寄せると、一志さんは僕の胸にすりっと頬を寄せてくれる。一日に摂取できる可愛いを確実に超えている気がする、頭の中に一志さん可愛いの文字がこびりついて離れそうにない。 「俺にふさわしい男っていうのがよくわからないが、俺も五喜のとなりにいて恥じない男になる。この年でもう成長なんてしないと思っていたが、違うな。五喜と出会って、いろんなことを知った気がする」 「奥をぐちゃぐちゃに攻められるのが好きとか?」 「……っそういう話は、してないだろ」 「一志さんが可愛いからつい――ねぇ、一志さん。僕も一志さんと出会っていろんなことを知ったよ、二番に、広尾家に縛られる必要はないこととかね。そのおかげで三千留にスカウトされたよ、今度設立する事務所で働かないかって」  一志さんは僕の胸に寄せていた顔を上げ、黒い瞳をまん丸くする。「三千留が事務所を設立したのか? やることが違うな、王様は」驚いたように笑ってから、一志さんは僕の前髪をさわさわと撫でた。 「三千留が設立するのは芸能事務所なのか?」 「うん。美しい僕にぴったりでしょ」  いつもの軽口を言ったのに、一志さんは本当に優しく、穏やかに微笑む。 「ああ。五喜の誇りである美しい顔を武器にできる素敵な仕事だと俺は思う」  ずるい、本当にずるい。  優しい表情で、甘い声で、僕の頬を撫でながらとびきり嬉しいことを言われたら、泣いてしまう。  思わず一志さんを強く抱きしめて、顔に埋める。シャンプーの匂いの中に、一志さんが持つ花のように甘い香りを感じとり、そこにキスを落とした。 「……うん。この美しい顔で天下を取るよ。芸能界の天下ってよくわからないけど――ねぇ、一志さんは僕の顔、好き?」  ゆっくり一志さんと視線を合わせる。涙のせいでぼやけているけれど、一志さんが優しく微笑んでいることだけははっきりとわかった。 「ああ、大好きだ」  それは、顔のことだけじゃないニュアンスで、一志さんはそっと僕の唇に口づけをくれる。今のはどう考えても反則だ、可愛すぎる罪で逮捕したい。 「僕のほうが一志さんのこと好きだけどね。今日わかったでしょ? でも、あんなものじゃないから。まだまだ一志さんが足りない、もっとほしい。これから毎日たっぷり一志さんの心と体に僕がどれだけ一志さんが好きか、教えてあげるから」  何回、何百回抱いたとしても、満足できないで一志さんを抱きたくなる未来しか見えないよと耳元で囁く。一志さんの耳がじわりと赤く染まり、弱々しいパンチが飛んでくるから優しく受け止めて薬指に誓いのキスをした。 「二十歳になったらプロポーズするから待っててね」  今年の誕生日、「未成年はお断りだ、せめて五年待て。五年経っても同じ気持ちだったら告白しろ」と一志さんに言われた。同じ気持ちどころか、成人した僕はもっと一志さんを好きになっている。 「待ってるから、早く二十歳になれよ」 「やっぱり白金財閥で僕だけ二十歳になる薬開発してもらおうかな」 「怪しすぎるだろ逆に子どもになるかもしれないぞ」 「見た目は子ども、頭脳は大人ってやつ? 一志さんを満足させてあげられないから困る」 「お前は俺のためにもう少し自重してくれてもいいんだぞ」 「一志さんが可愛すぎるからいけないよね」  一志さんの頬を撫でて、やわらかい唇を啄ばみながら、まったく中身のない会話をするのがあまりに心地よくて、うとうと目蓋が重たくなる。それは一志さんも同じみたいで、僕の口づけを受けながら、とろんと目を細めている。 「明日、じゃないか、もう今日か、一志さんも今日は学校はないよね?」 「ああ、明日、じゃなくて、今日は有給だ」 「じゃあ起きたらシようね」  にっこり笑って一志さんの唇を甘く吸うと、一志さんは真顔で「おやすみ」と言って目を閉じる。  えっ、ちょっとひどくない? せっかく休みなら一日中シようよと一志さんの体をゆさゆさ揺さぶると、一志さんはものすごく恥ずかしそうに眉尻を下げ「……一回だけなら」ぽつりと呟く。ゼロよりはマシか、できるかぎり一志さんの中を楽しむためにイかないようにしようと頷いて「一志さん愛してる」と抱きしめた。  もちろん、一回ですむわけがなく、真っ赤な顔をした一志さんに怒られたのはまた別の話。

ともだちにシェアしよう!