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ときめきエプロン

「一志さん、僕のお願いを聞いてくれないかな」  トントン、まな板の上に置いたじゃがいも、にんじん、玉ねぎを切っていく。料理の中で切るという工程が好きだからか、自然と気分が乗ってくる。料理番組で使われている『おもちゃの兵隊のマーチ』を鼻歌で歌っていると、五喜がとなりに立っていたことに気づいて、なにも歌っていませんとばかりに口を閉じた。今の鼻歌を聞かれていたら恥ずかしいと思わず眉を下げていると、五喜はまるで子どもが一生のお願いと言う時のように俺を見つめてくる。  なんだろう、嫌な予感しかしない。妙に真剣な表情をしている時点で怪しいし、眼鏡もしていないし、背中に回している両手にはなにか握られているように見える。 「断る」 「まだなにも言ってないんだけど」 「嫌な予感がする」 「むしろときめきの予感しかしないよ」  俺の周りにまとわりつく五喜をスルーして、フライパンの中に切った野菜を入れ、炒め始める。  五喜になにを食べたい? と聞くと一言めには「一志さんが食べたいな」と返してくる。じっと真顔で見つめると「肉じゃがが食べたい」とかなりの頻度で肉じゃがを口にする。今日もまた五喜に食べたいとせがまれ、可愛いおねだりを喜んで了承した。だからこそ、これから五喜が口にしようとしているお願いは可愛くないものだと察してしまう。真剣な表情の中に五喜の欲が見え隠れているのだ。 「後ろに隠しているのはなんなんだ」 「ときめきの正体だよ」  フライパンの中に水を加えてから、チラリと五喜が手に持っているものを覗き見しようとする。五喜は待ってましたとばかりに満面の笑みを浮かべて『ときめきの正体』をひらりと揺らした。  真っ白いエプロン、ならまだよかった。あろうことか胸の部分がハートに形どられ、中央にはピンクのリボンが可愛らしく主張している。裾にはフリルがこれでもかとあしらわれ、料理をするためのエプロンというより、コスチュームプレイをするためのものに思えた。  なんて悪趣味なんだ。次に五喜の口から飛び出す言葉がたやすく想像できてしまう自分が恥ずかしく、じわじわと頬が赤くなるのをなんとかごまかそうと、フライパンに豚肉を加えた。 「……それ、どうする気なんだ」 「裸エプロンでえっちし「断る」 「僕のささやかな夢を最後まで聞いてよ」 「なにがどうささやかなんだ」 「キッチンに立つ一志さんって人妻感出てえっちなんだよね、自覚ある? キッチンで一志さんとセックスしたいって思うのはいっそ健康だと思うよ。本当は今一志さんを裸に剥いてもいいんだけど、今着けてる黒いエプロンでセックスしたら、一志さんはそのエプロン着けるたびに恥ずかしくなっちゃうだろうと悩んだ末にこのエプロンを買った僕偉いでしょ」  なんなんだその理論は。意味がわからない。  耳まで熱を持つのを感じ、五喜と目を合わすまいとフライパンの中に調味料を入れていると、五喜は白いエプロンをキッチンに置いて、俺の後ろに立つ。あ、抱きしめられると思わず肩を跳ねると、五喜の腕が俺の腰に回りぴたりと隙間ないほどに抱きしめられた。  ばくばくと胸が高鳴るのは、出会った時よりも五喜の体が逞しくなったからだけじゃない。愛する恋人に抱きしめられているから、馬鹿みたいにドキドキする。 「いきなり裸エプロンでえっちしようなんてムードがないよね、ごめんね一志さん。だから、今から一志さんをその気にさせてあげる」 「どういう意味――ひ、ぁっ……ん、ぅッ」  カプリと耳殻を甘く食まれた瞬間、ぞくぞくと体中に快感が走る。たったそれだけのことで気持ちよくなるのが恥ずかしくて、なんとか抗おうと震える手でしらたきとしょうゆを入れていると、耳元で五喜がふっと笑う音がした。 「は、……ッふ、ぅうん……い、つき、ぃ……っ」  これじゃあ五喜のペースになってしまう、どうにか意識をそらさなければいけないのに、ぴちゃりと熱い舌が俺の入り口を舐め上げられると、もうだめだった。必死にコンロの火を消して、シンクに掴まる。自分の足で立っていられないほど、体が五喜を期待してしまっている。はしたない声がでてしまう。嫌だ、恥ずかしい、こんな声上げたくない、だけど、五喜の舌がじゅぷじゅぷと耳の入り口から奥までねっとり抽挿するたびに、体の奥が五喜がほしいとじくじくと期待して腰が揺れる。 「一志さんえっち、腰揺れてるよ。僕がほしい?」 「ち、がッ……っあぁあ、そこ、やぁ……っ!」  揺れている腰を撫でさすられると、恥ずかしい言葉を否定するように首をふるふると横に振る。本当はもうほしい。すぐほしい。だけど、すぐその気になってはしたないと五喜に思われたくない。必死に快感から逃れようとしている俺に構うことなく、五喜の右手がエプロンの上から胸を撫で回してくる。ときおり指先が突起に掠めるのは偶然なのか、わざとなのか、多分後者だ。人差し指と中指の間にくにっと突起を挟まれ、引っ張り上げられた瞬間、チカチカ目の前が真っ白になった。 「いやじゃなくて、いい、でしょ? 一志さん可愛い、好き、大好き、えっちで、だけど恥ずかしがり屋さんで、はしたないと思われたくなくて我慢してるとこ、最高に可愛い、たまんない」 「ぅ、ぁあ……っ……、ばかぁ、そうい、うこと、言うなぁ……っ」  ちゅぽんっと耳から抜かれた舌が品のない音を立てて、エプロンの上から胸をさすられながら、うなじにちゅうっとキスをされる。五喜に「一志さん好きだよ、大好きだ、キスってこんなに気持ちいいんだね」と教え込まれたからか、キスをされると思考がどろどろに溶けていく。そのうえ揉める胸なんてないのに、指をくっきり食い込ませて揉もうとしてくるから、少ししか触れられていない突起が期待してエプロンの上からでもわかるほど主張してしまっている。  それなのに五喜は触ってくれない。わざと指先を突起に掠めるだけの刺激じゃとっくに足りないとわかっているくせに、その気になったと俺が言うまで、きっと触ってくれない。

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