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第5話

「お友達、帰っちゃったんだねぇ。」 エプロンを外しながら、仕事を終えたポーシィがこっちに来る。 今まで見知った服とは違う細身のジーンズのせいで、優雅な足捌きがよく見える。 体の動きに合わせて編んだ髪がゆったりと揺れ、それはまるで一つの絵の様で、目を奪われた。 「小波(こなみ)?」 ポーシィの顔も変わらず綺麗だ。 ああ、やっぱり好きだなぁ。 「小波(こなみ)? どうしたんだ?」 はっ!! 見惚れてた! 「ーーー怒ってるのかい?」 「え、違っ・・・」 「そうだな、急に黙って離れてしまったら怒るに決まっている。すまない、小波(こなみ)。」 眉を下げ、悲しそうにポーシィは目を伏せた。 「怒ってないよっ。そうじゃなくて、あの・・・き、綺麗だなぁと思って・・・。」 何か妙に恥ずかしいけど、思ったままをポーシィに言う。 悲しい顔はさせたくない。 俺の言葉に顔を上げたポーシィは、見たことがない笑顔をしていた。 すごく嬉しそうで、薄紅色に染まった頬が色っぽい。 唇も艶っぽい。 その笑顔にすっかり魅入られていたら、ポーシィの手が俺の頬を触った。 「ああ、これが小波(こなみ)の肌か・・・。」 肌の感触を確かめる様に撫でられ、勝手に身体が震えた。 そのまますぅっと手が滑り、俺の顎を支える。 唇を親指の腹で撫でられて、だんだん顔が熱くなってきた。 「ああああのっ、ポーシィ? ちょっ・・・」 心臓が痛いくらいに脈打つ。 だんだんとポーシィの顔が近くなってきたかと思うと、唇に冷たいものが一瞬触れた。 「うん。これが小波(こなみ)の唇ね。」 ぺろりと自分の唇を舐めて、ポーシィが言った。 妖艶さが増したその顔と深海を思わせる瞳が、彼を人ならざる者だと知らしめる。 青い髪が艶やかに光を放つ。 ああ、何て綺麗なんだろう 出会ってからずっと焦がれていた存在。 触れて欲しくても、決して触れることのできない存在。 大好きで堪らない俺の海神様。 ・・・・・ん? あ、あれ? 今、俺、ポーシィとキキキキキスしたんじゃ、って、えぇぇぇぇえっっ?! 「おや、こんなに赤くなって。本当に小波(こなみ)は可愛いなぁ。」 「なんでぇっ?!」 思わず突っ込む。 どうしてポーシィが俺にキスするの?! 驚く俺に僅かに首を傾げて、ポーシィが答える。 「何でって、対価だろう? 私が小波(こなみ)に触れる様になったら、沢山触ってあげるって言ったろう?」 どこがおかしいのか分からない、とその顔は言っている。 いや、確かにそういう話になってたさ。 それを対価として契約を交わしたんだから、間違ってはいない。 だけど、それって頭を撫でてくれたりとか、手を握ってくれるとか、そんな事じゃなかったの?! それに、確か“俺が望んだ時” にって話じゃなかったっけ?! 「だってだって、ポーシィは俺の事、好きじゃないよねぇ?!」 「はあぁ?! いつそんな事を言ったかなぁ?!」 「だって、あの時っ、あの時っっ・・・」 あ、れ? あの時ポーシィは何て言ったっけ? 「私は何も言っていないよ。小波(こなみ)が勝手にNO(オヒ)だと思ったんじゃないか。」 俺を見ながら、ため息混じりに言う。 「いいかい、小波(こなみ)は私のお気に入りなんだよ? 好きに決まっているじゃないか。」 「そんなの聞いてないよっ!」 何? 何なんだよ? 俺の片思いじゃなかったって事?! いやいや、それこそポーシィからしたら、家族みたいなものなんじゃないのか? じゃ、やっぱり片思いなのかな? 「その顔はまだ分かってなさそうだなぁ。」 へ? ナンデショウカ? ちょっ、何か目が怖いんですけどぉ?!

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