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第8話

「一ヶ月前だったかなぁ、いつもと違う感じがしたのは。」 ポーシィがハーブティーを俺に勧めて、詳しい話を始めたのは、俺が目覚めて落ち着いてからだった。 落ち着いたと言っても、ポーシィにされたことがなかなか頭から消えず、気が緩むとすぐ思い浮かんで恥ずかしくなる。 まだ頬は熱いままだから、顔は火照ってるんだろう。 ポーシィが用意してくれたハーブティーは、冷たく冷やされている。 一口飲めば爽やかな香りが口の中に広がった。 「力が戻ったと確信したのは、その一週間後くらいでね。勿論、すぐに小波(こなみ)に言おうと思ったよ。でも実体化ができたとしても、昔とは違うだろう? 得体のしれない者は不審がられる。どうすればいいのか決めかねて・・・弟に相談したんだ。その時に、私の小波(こなみ)への想いも言った。」 ポーシィもハーブティーを一口含む。 その所作は優雅で、やっぱり見惚れてしまう。 「そうしたら、ここを使えと言われてね。この建物は元から喫茶店ではあったらしいが、大分前に店をやる者がいなくなって、どうにかしたかったそうだ。小波(こなみ)の学校にも近いし、寧ろ使って欲しいと言われれば断れないだろう? 当面の費用も、弟の宿主がオーナーだから自分で持つと言うし。お金はあり余ってるから売上も気にしなくていい、店長権限で内装もメニューも私の好きにしていいという事だから、まあ、いいかな、と。喫茶店ならのんびりやっていけると踏んだのだが・・・意外と忙しいものなのだな。」 ーーー残念だったね、ポーシィ。 世の女の子たちはイケメンに惹きつけられるんだよ。 しかも、最上級のイケメンが眺め放題なら、毎日だって来ちゃうよ。 勿論、紅茶も美味しいんだから、来ない訳がないよね。 「まぁ、それに、いい頃合いだと思ったのでね。遇えて小波(こなみ)には内緒で準備をして、何も言わずに実体化してオープンを迎えたって訳だ。」 「いい頃合い?」 首を傾げる俺を見て、ポーシィは満足そうに目を細める。 「もう布石は敷いたし、明日が楽しみだなぁ、小波(こなみ)。」 ・・・・・何だろう。 何かとっても怖いんだけど。 現在進行形で何かが起きてるーーーそんな気がする。 「ポーシィ? どういう事?」 上目遣いでじっとりと見つめて尋ねると、軽く笑われ、頬に軽くキスをされた。 相変わらずその唇は冷たい。 「明日になれば分かるさ。今日はもう遅い。家まで送ってやろう。」 「えっ?! いや、そんなっ・・」 「何、簡単な事だよ。一瞬で着く。」 なんてことはない感じで言うけど、そんなことできたっけ? 不思議に思ってポーシィを見れば、少し意地悪そうな顔で笑った。 「言ったろう? 力が戻ったと。そのくらい簡単にできるさ。ーーー試してみないかい、小波(こなみ)。」 「え、遠慮します。っていうかさ、ダメだよ、簡単に力使っちゃ。」 ポーシィの眉が寄った。 これは、言われた事が理解できてない顔、かな。 「あのさ、ここは現代の日本なの。ポーシィにとっては力を使うのって当たり前の事かもしれないけど、俺たちにとったら特別な事なんだよ。誰かに見られたら大騒ぎになっちゃうよ。俺は、静かな所でポーシィといたい。ずっとこうやって一緒にいたいんだ。ーーーーーー俺の言いたい事、分かる?」 上手く言えなくて、自分の気持ちがちゃんと伝わってるのか心配になる。 ポーシィの目は微かに揺れてから閉じられた。 そして、一呼吸置いて開かれた時には、少しも揺れる事なくしっかりとこちらを見ていた。 「ーーー分かった。極力、力は使わない。普通の人間の様に振る舞うよ。」 「ありがとう、ポーシィ。」 分かってもらえて良かった。 できるだけ長く一緒にいたいんだ。 ポーシィが神様だなんてバレたら、もう実体化していられなくなっちゃうだろうし。 なんて、ほっとしていたら、ポーシィが真剣な顔で続けて言った。 「神の力は使わないが、人脈は使わせて貰うぞ。送らせるから、少し待て。」 「へっ?!」 何言ってるの? 家までは電車で一駅だし、駅からだって10分は掛からないのに。 で、人脈って何?! 「私にだって知り合いくらいいると言ったろう?」 いつの間にか手にしたスマホをひらりと見せる。 ーーーーーLINE使ってる・・・・・え? 何でこんなに馴染んでるんだよ。 おかしいよね? おかしいよねぇ?! 「小波(こなみ)が使ってるのを見てたから、全く問題ないぞ? 」 ああ、そういう事かあ。 って、それにしてもいろいろ馴染みすぎてる。 間違いなくポーシィはあれだ、うん、神様なんだよ。 なのに文明の利器を使い熟すっていうのは・・・何かちょっと納得いかない。 「小波(こなみ)。念の為に言っておくよ。」 ん? 何だろう? 「私はお前を愛しているからね。」 「・・・!」 突然、甘く響く声で囁かれ、身体が勝手に反応した。 かぁっと頭に熱が篭っていく。 「もう疑ってないね? 」 こくりと頷く。 恥ずかしくて声が出ない。 思い出しちゃったから。 ポーシィと何をしていたか。 自分がどんな声を出していたか。 「小波(こなみ)は私のものだからね。しっかりと刻み付けたし、もう逃がさないよ。」 「に、逃げ、ないしっ。」 ちゅっと頂にキスが落とされる。 それから額、目蓋、鼻、頬に、そして最後に唇へと下りてきた。 別れを惜しむように、だんだんと激しくなっていく。 ポーシィの唇は冷たい。 でも、舌は焼ける様に熱くて堪らない。 触る事のできなかった十三年間、焦がれ続けたポーシィの肌が俺の身体にぴったりと付く。 離れたくない。 どんなに激しくてもいいから、ずっと抱いていて欲しい。 ーーーーポーシィとのキスは、俺を送る為に呼び出された相手が声を掛けるまで、お互いを貪る様な勢いで続いた。

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