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第9話
翌日、幸せな気分で目覚めた朝。
思ったよりも身体が軽いのには驚いた。
あれだけされたら、普通身体中痛いとか怠いとか、起き上がれないとか何かあると思っていたのに、そんな様子はない。
んー?
そういえば、昨日の夜も普通だった様な・・・・?
不思議に思いながらも、支度をして家を出る。
うん、いい天気だ。
体が軽いからなのか、それとも心が満たされているからか、どこか太陽が柔らかく感じられた。
気を引き締めておかないと鼻歌でも出そうなくらい、気持ちがいい。
けど、電車に乗って、学校のある駅で下りた辺りから、周りの視線が容赦なく注がれる。
それは嫌な感じではなくて、こう、生温かくって、どちらかと言うとほんわかした空気が広がってるみたいに感じる。
「おはよう、小波 !」
東太 がいつもの様に大きな声を掛けてくる。
「おはよう。・・・なあ、何か変じゃないか?」
「あ、気付いた?」
東太 は平然と答えた。
「噂の上書き第二弾、てヤツだよ。今日はもう諦めな。とっくに全生徒の注目の的になってんだから。」
にかっと笑う東太 の顔が恨めしい。
余計な事しやがったな。
「怒るなよ。ちゃんと本人の許可は貰ってるんだから。」
「俺は聞いてない!」
「お前の許可なんているかよ。もう一人の方だよ。中々の策士だよな、あの人。」
あの人?
「うまくいったんだろ? 良かったな、小波 。ーーーの割に体、平気そうだな。」
「は?・・は・・はあぁっ?! な、何言ってんだよ、お前・・あっ!!」
そうだ、ポーシィが俺を好きだって事、こいつは気付いてたんだよな?
あの時、二人で何か通じ合ってたようなーーーー
「はーい、俺に指示したのはあの人な。ま、あれだけで気付く俺も凄いだろ?」
東太 は、にやにやとした顔で俺を見る。
くそ、褒めてなんかやるもんか。
「で? どんな噂を流してくれたのかな、東太 くん?」
「怖っ。どんなも何も、長い長いお前の片想いが実って、今はラブラブだよーん、て事実を言っただけだし。」
「ラブラブって・・・。嘘だろっ?!」
「隠すことないだろ。大丈夫だよ。どうせすぐバレるだろうし。」
そういう問題じゃない、と言いたかったけど、周りからのお祝いの言葉が多すぎて、何とも言えなくなった。
「おめでとう、大平 くん。悔しいけど、ずっと想ってた人とうまくいって良かったね。これからも応援してるからねっ。」
「やったじゃん。昨日の今日で片想いが両想いになった、なんて話になるとは思わなかったぜ。」
あははー。
クラスの皆からも盛大にお祝いされて、何とも居心地が悪い。
俺はひっそりと静かにポーシィと過ごしたいのに。
恨みを込めて、隣にいる東太を睨む。
東太 はへらりと笑って、小さな声で俺だけに聞こえる様に言った。
「ほら、面倒なのがこっち見てる。」
ちらっと視線を動かす先を追って、俺もそっちを見る。
一昨日告白してきたあの子がこっちを見ている。
うわあ、やだなあ、もう。
「ーーーー勘弁してくれ。お前のせいだ。」
「違うな。あの人が仕組んだんだから、あの人のせい、が正しい。」
しれっと言う東太 に呆れてしまう。
口に出して指示があった訳じゃなし、ポーシィのせいっていうのは違うんじゃないか?
「いーや、あの人は目で全てを語ってた。分かっちゃった以上、動くしかないだろ。」
何で分かっちゃうんだ、東太 ?
「知らね。あの人は凄く綺麗だけどさ、怖い人だよ。敵に回したらいけないタイプだな。ーー小波 も知ってるんだろ?」
ああ、うん、そりゃあね。
だってポーシィは神様だもん。
ポーシィの怒りは町をも飲み込むからね。
「って訳で、俺はあの人に逆らわない事に決めたから。ま、お前の幸せが大前提だけど。」
むむーう。
にかっと笑った東太 に、何も言えない。
俺の幸せの為ならポーシィに従う、ってことだろ?
「重く考えるなよ。親友が幸せになるのを願って何が悪い。」
まるでそれが当たり前かの様に、自然な顔と声で東太 は言った。
いや、うん、俺だって東太 に幸せになって欲しいから気持ちは分かる。
だから、ただ一言だけ。
「ありがとう。東太 ――――――。」
聞こえるかどうかの小さな声で、お礼の言葉を呟いた。
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