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【02/蒼生】俺のユウ②

「雨だ……」  突然、雨が降った日があった。  俺は辞書を引く手を止めて、顔をあげた。窓際のカウンター席だからね、慌てて小走りになる人達がよく見えた。 「そうだね」  ただの世間話だと思ったんだ。だから適当に相槌をうった。でも、ユウは珍しく黙ってしまった。正直、戸惑ったよ。不安そうに自身を抱きしめているんだ。少し、震えているようにも見えた。 「どうした?」 「え? あ、いや……傘、ないから……」  どう見ても異常だった。  雨にトラウマがあるのかと思ったけれど、あの時はまだ聞くことが出来るような仲ではなかったのかな。だから励ましたいとか、助けたいとか、そんな気持ちで肩を抱いた。 「蒼生?」 「折りたたみ傘なら持ってるから、貸すよ」  震える肩をそっと親指で撫でると、ユウは小さな声で、ありがとうと言った。そして結局、傘は差さずに帰ったよ。  ユウは携帯を持っていないけれど、別に困っていなかった。図書館に来れば会えたからね。でも、会えなくなった。あの雨の日以降、パタリと来なくなったんだ。  いつもの席に座ると、ユウの肩を抱いた感触を思い出すんだ。色々考えたよ。親友と呼ぶにはお互いのことを知らなすぎるし、単純に友達と呼ぶのも寂しい気がした。  もう一度会って話したい。日増しに大きくなる気持ちに戸惑った。放課後、ユウと過ごす時間が、自分の中でとても大切な時間になっていたんだ。 「ねぇ蒼生、とりあえずキスをしようか」 「え゛!?」  衣替えが済んだばかりの初秋、ユウは再び現れた。  久しぶりに会えたと思えば変なことを言い出すから、俺はつい変な声を出してしまった。 だって普通驚くだろう? 友達とキスなんてするかい? そう、ありえない話さ。 「急にどうした?」 「確かめたいんだ」 「何を?」 「気持ち」  ユウは真剣な目をしていたよ。 「頬に……ってわけじゃなさそうだね」 「うん、口でしたい」 「嫌だと言ったら?」  俺は自分をゲイだと思ったことはないし、そんな話をしたこともない。もしユウがそうなら、かなり勇気を出しての発言なんだろうと思った。だから、なるべく傷つけないように断ろうと思ったんだ。でも―― 「蒼生、何事も経験だよ?」 「キスなら経験あるよ」 「えっ、そうなの!?」 「彼女と、ね」 「そっか……」  傷つけるような言い方しか出来そうになかった。  まぁ、女性の話をすれば、ユウは諦めると思ったし、性別が理由なら、越えられない壁ってやつだからね、ダメージは最小限かなと思った……ってことにしてくれ。  ちなみに彼女がいたのは本当だよ。中学の頃の話だ。一応、学校では有名な美女だったけれど、俺の好みではなかったかな。面倒くさくて、すぐに別れた。  俺はきっと、特定の誰かと必要以上にベタベタするのは苦手なんだ。たとえ相手がユウでも……いや、ユウなら……? 一瞬、変な考えが過った。小さな違和感に胸をざわつかせながら、ユウの目を見たんだ。 「でも、蒼生は断らない」 「なぜ、そう思うんだい?」 「蒼生は気付いてないんだ」 「何?」 「キスしたら分かると思うよ」  ユウは全てを見透かしたような目で微笑んだ。俺は、魔法としか言いようがない力で頷き、キスをしたんだ。  そして、唇が触れた瞬間、本当に理解した。自分の中で消化しきれていなかった感情が、一気に暴れだして、目眩がしたよ。 「僕は蒼生が好きみたいだ」  ユウが笑った。 「俺もユウが好きみたいだ」  俺も笑った。 「ユウがユウだから……」 「僕が、僕だから?」 「そう、ユウだからだよ」  ユウなら、女でも好きになっただろうね。俺はユウが好きなんだ。ユウが特別なんだよ。ユウとは何時間でも一緒にいたい。もっと多くの時間を共有したいと思った。これが恋だと気づかせたユウの罪は重い。これからもっともっともっともっと、ユウを知りたい、独占したいと思った。

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