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【02/蒼生】俺のユウ③

 高校2年生の春……つまり今まで、特に大きな変化もなく過ごしてきたと思う。ユウは俺の誘いをのらりくらりとかわし、相変わらず放課後の数時間を一緒に過ごすだけだった。でも、満たされていた。  ユウは本が好きで、俺も本が好きだ。好みのジャンルは違うけどね、お互いの読んだ本の話をしたり、なかなか有意義な時間を過ごしてきた。  ユウは空想の世界が好きなんだ。特にファンタジー。考え方や口調が別人になるほどハマることもある。役者でも目指すのかと聞いたら、それも悪くないねって笑った。  ユウの空想に付き合うのは楽しかった。2人だけの小さな劇団だ。たくさん笑った。ユウは残酷な話より、笑える話が好きなんだ。だから、記憶がないフリをしているユウには驚かされた。  ユウが最後に読んだ本は何だ? 何に影響された? それとも、俺に飽きた? まさか、それはありえない。だって俺とユウだからね、ありえないんだ。 「僕はあんたなんか知らない! 男とキスする趣味もない!」  なぜ嘘をつくのか、記憶がないフリをするのか、いつまで演技するつもりなのか……。 「気持ち悪い……」  違う。嫌悪感むき出しの目だ。でも何故……。苦しくて、涙が止まらなかった。  ユウは自由な子だからね、縛りたくなかった。いや、正直に言えば、ユウの意思で縛られてほしかった。だからユウが図書館の外では会いたくないなら、無理強いはしないと決めていたし、俺は毎日、静かに図書館で待ち続けていたんだ。 「最悪だっ」  俺が知っているのは白桃大付属の2年生って事だけだった。ユウはあまり自分のことを話さないし、話してくれるまで待ちたかったからね。  何にハマったのか知らないけど、あれだけ注目を集めて勝手に帰るなんて、冗談でも酷いと思った。少しだけ腹を立てていたかな。でも、ユウが残した鞄を見て、会いに行く口実が出来たことを、内心喜んでいたんだ。 「ユウ、なんで……」  ……行くべきじゃなかったのかな。俺は、何があっても図書館で待ち続けるべきだったのかもしれないね。 「ユウって呼ぶな!」  じゃあ、目の前のユウは誰だ? 同じ声で、瞳で、愛とは正反対の気持ちをぶつけてくる彼は、誰なんだ?  いつもの、ごっこ遊びであってほしい。でも、演技だとしても、ユウの口からそんな言葉は聞きたくなかった。  苦しくて、会いたくて、おかしくなりそうだ。涙が止まらないんだ。助けてくれ、ユウ……。

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