9 / 84

【03/和馬】秘密①

 体育科のスポーツ特待生は、遠方から来ているヤツが多い。学校の近くに学生マンションがあって、みんなそこに住んでいる。オレも例外じゃなかった。  そんなオレの部屋に、優斗が初めて泊まりに来たのは、高校1年の夏休みだった。  優斗は料理が下手だった。特に野菜を茹でさせたらやばいぞ? 入れ歯がなくても食べられそうだなって言っちゃったくらいドロドロだぞ?  そんなこんなで、オレが料理をして、優斗が片付けるっていうスタイルが定着したわけだが、優斗がオレの部屋に入り浸るようになったのにはちゃんと理由があった。 「っ……ううっ……」  夜中、目を覚まし手元の照明スイッチを1回だけ押すと、薄明かりの中で苦しそうにうなされている優斗が見えた。 「お、おい、大丈夫か?」 「ん゛っ……」  起こした方がいいと思った。だから頬をペチペチ叩いて……すごい汗だった。 「おい、優斗、優斗」  呼んでも揺すっても起きない。とりあえずタオルで汗を拭いた。着替えさせるためTシャツの裾を掴み、押し上げようとすると、優斗が何か言った。だからオレはTシャツを掴んだまま、優斗の口元へ耳を近づけた。 「て……」 「ん?」 「……や、やめ……てっ……」 「あ、ご、ごめん……」  慌てて手を離した。でも、オレに言ってるわけじゃなかった。寝言だ。 「母さん、やめ……」  夢の中で優斗を苦しめているのは、母親のようだった。 「母さ……」  うなされ続ける優斗を見ていると、オレまで胸が苦しくなってきた。とりあえず今できることしよう、着替えさせようと思い、Tシャツを押し上げた。 「っ……」  目に飛び込んだのは、無数のアザやカサブタだった。  家庭に問題がある話は少しだけ聞いていた。だからきっと犯人は家族なのだと、察してしまった。優斗の秘密を勝手に覗いてしまった罪悪感……痛々しくて見ていられなかった。Tシャツをそっと戻して優斗を抱き上げ、ベッドに運んだ。  オレには手を握ってやることくらいしか出来なくて、悔しかった。

ともだちにシェアしよう!