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【03/和馬】秘密④
「なぁ、ユウってやつ、知ってるか?」
「誰? 普通科? あ、芸能人の話?」
優斗はユウのことを知らない。
「なぁ、夢遊病っぽいって言ってただろ?病院、行かなくていいのか?」
「んー、今のところ困ってないし」
さりげなく病院の話をしたが、優斗は自覚がないから行く気にならない。
「僕を消そうとしないでよ。優斗には僕が必要なんだ」
「二重人格、いや解離性同一性障害」
「その言い方は好きじゃない」
「心に強いストレスを受けたとき、自分の心を守るために、自分の中に自分ではないもう一人の人格を作り上げる……立派な病気だ」
「僕は和馬くんの大好きな優斗を守ってるんだよ? 感謝してほしいくらいなのに」
ユウの言う事も一理ある。ユウがいなければ、心が壊れていたかもしれないからだ。
でも、病気だ。でも……ユウは夜になると少し出てくる程度で大人しく、実害がないのも確かだった。病院に連れていくか、見ぬふりをするか、ずっと考えていた。
「なんで寝顔を眺めるだけなの?」
「優斗の気持ちを無視したくない」
「優斗を保護してくれているご褒美に、僕からキスしてあげよっか?」
「おまえとはしない」
夜、現れてはオレをからかう。
ユウは本が好きでだった。明るく元気で自由なこいつの、意外な趣味に救われた。もし本がなければ、どこかで何かをやらかしては、優斗に迷惑ばかりかけただろう。外を出歩かせたくないオレは、図書室でユウのために本を借りる日々を送るようになった。
「ファンタジーの本なら何でもいいと思ってるでしょ?」
図星だった。ファンタジーっぽいやつを、適当に借りてきている。
「オレなりに考えて借りてきてるぞ」
「嘘だ! ねー、自分で選びたい!」
いつからか、我がままを言うようになった。
「放課後、優斗よく寝てるでしょ?だからさ、ちらっと行って――」
「ダメだ!」
「ケチ!」
「ただでさえ夢遊病かもって悩んでるのに……優斗の迷惑を考えろよ」
「和馬はユウのことを何だと思ってるの?」
「ユウは優斗で、優斗はユウだ。違うのか?」
「ユウは優斗じゃないよ」
優斗が抑え込んでいるものをユウが解放する。そうやって、2つの人格でバランスをとっていると感じた。だからオレの中では、ユウは優斗だし、優斗はユウだった。
ただ……治療した時、消えるのはユウだ。だからユウの存在を認めすぎないよう、壁を作って接していた。
「ユウは優斗じゃない……」
ユウの哀しそうな目に、胸が痛まなかったわけじゃない。でも、オレは優斗の方が何万倍も大事だった。
だから、オレのせいなのかもしれないな。オレがユウをもっと見てやっていれば、違ったのかもしれない。今更後悔しても遅いんだけどな……。
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