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【03/和馬】秘密⑤
「好きな人ができました」
ある日、ユウがふざけたことを言った。
「誰?」
「教えない」
「優斗の身体で勝手なことをするな」
「ユウの身体だもんね!」
なんだかんだ身の程をわきまえていると信じていた。だから夜しか行動しないと、決めつけていた。そう、オレがバカだった。そういう大人しい性格じゃないことは分かっていたのにっ!
オレが病院のことを先送りにしていたせいで、ユウが調子に乗ってしまった。
そして事件は起こった。
「おまえ何考えてんだよ!」
放課後、いつものように優斗を迎えに行くと、優斗は全身ずぶ濡れで呆然としていた。優斗をなんとか励まし誤魔化し、夜になるとユウを責めた。
「急に雨が降っちゃったんだ」
「優斗の身体で何してんだよ!」
「ユウの身体だよ」
「優斗の身になれよ!普通に恐怖だろ?混乱するだろ?」
「それは……ごめん」
最悪だ。学校の外に出ていた。
「病院に連れていく」
「やだ」
「優斗に迷惑かけたり、不安にさせるようなやつはいらない」
「やだ」
ユウは泣いた。
「本当にごめんってば! 大人しくしてるから、迷惑かけないから」
あんな顔で泣かれたら無理だ。もうしないと約束できるならと、結局オレは涙にやられて許してしまった。
「病院で治療をしたら、消えるのはおまえだ。それだけは覚えておけ」
「そんなの……分かってるよ……」
「次はないからな」
「うん……分かってる……」
次、何かあったら、その時は絶対に病院へ連れていく。何度もユウに言い聞かせた。
だが口では色々厳しく言っていたが……ユウは必要だから存在しているという可能性を否定できないオレは、なんだかんだユウに甘かった。
そして記憶が薄れた頃、ユウは2度目のずぶ濡れをやらかした。
「次はないって言ったよな?」
「うん……」
「病院に行く覚悟ができたってことだよな?」
オレは必死に怒りをこらえて、淡々と責めた。
「傘、貸してくれるって言われたんだ。でも借りなかった」
「優斗が目を覚まして知らない傘があったら困るだろ?」
「うん、和馬くんならそう言うと思った」
ユウは弱々しく笑った。
「僕……最近、あまり出てこられないんだよ」
「あ?」
「ねぇ和馬くん。僕、このまま消えるのかな?」
ユウは小さく震えた。そして、本当に現れなくなった。願っていたことだったが、少し胸が痛んだ。……が! 忘れた頃に、大きな問題を起こしやがった!!
「起きたら駅前の図書館にいたんだ」
ユウは消えていなかった。
「知らない人が僕を知っているみたいだった」
ユウは誰かと会っていた。多分、前に話していた“好きな人”ってヤツだ。
「病院に行こう」
「うん……」
オレは感情を押し殺し、なるべくいつも通りのテンションで会話をした。優斗がストレスを感じれば感じるほど、ユウが元気に動き回る気がしたからだ。
ずっと優斗にはユウの存在を隠してきた。だが、そろそろ話すときが来たのかもしれない。
優斗のために、オレができることは――。
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