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【06/蒼生】部屋で……①
図書館前から5駅。そこから自転車で10分。
近所の景色を言うなら、畑、田んぼ、時々神社かな。
「ド田舎だね」
「それなりに田舎だよね。でもまぁまぁ家も建ってるし……」
「ド田舎だよ」
まぁ、そうだね。確かに田舎だよね。
でも、鳥や虫の声をききながら歩くのは嫌いじゃないし、
この世界でユウと2人きりになったような錯覚が心地よかった。
***
「おじゃまします」
「緊張しないで、両親の帰りは遅いから」
リビングへ案内すると、俺はキッチンに回り込んで冷蔵庫を開け、カウンター越しに声をかけた。
「お茶か、コーヒーか、あとは……」
母の秘蔵の100%ジュースが目についた。1本千円の高級みかんジュースだ。
今日は特別な日だからね、迷わず手にとった。
「みかんジュース、どれがいい?」
「蒼生と同じやつを頂くよ」
「じゃあ、みかんだね」
グラスに注ぐ。国産のみかんをそのままごろっと粗く絞ったジュースは、どろっとしていた。
「どうぞ」
「ありがとう」
お茶請けに、ドライフルーツをテーブルに置いて、ソファに座った。
「ユウも座って?」
「え? あぁ、うん」
ユウは少し落ち着かない様子だった。
「どうしたの?」
「なんか、すごい綺麗なお家だね」
「普通だよ」
「あれって、もしかして……」
「あぁ、ホームシアターだよ。父が音にうるさいタイプだからね、なかなか良いよ」
「すごいなぁ」
「何か観るかい?」
「ううん、今日は時間ないから。また今度でいいや」
また今度、その言葉が嬉しかった。つい、ポップコーンを食べながら、ソファで一緒に映画を観るシーンを想像したよ。
近いうちに叶う気がして、口元がほころんだ。
「そうだね、また今度」
そして、ドライキウイを口にくわえて考えた。ユウはただ遊びに来たわけじゃない。
俺は今から優斗にも会うことになるわけだから、その打ち合わせをする必要があるのではないか……。
「ねぇ」
「ん?」
「蒼生の部屋はどこ?」
「あぁ、2階だよ」
「見てみたいな」
「じゃあ、部屋で話そうか」
両親は遅いと言われても、初めて来る家のリビングでは寛げないのかもしれないね。
俺は、グラスと器を持って立ち上がった。
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