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【06/蒼生】部屋で……②

「優斗との交代は、好きなタイミングで出来るのかい?」 ベッドに並んで座ると、俺から本題を切り出した。 「好きなタイミングってほどじゃないんだけど……ある程度は読めるってゆーか……」 ユウはジュースを少しだけ飲んで、ナイトテーブルに置いた。 「優斗が寝ている時に、僕が出てくる感じなんだ」 「優斗が寝ないとユウは出て来られないの?」 「ううん、優斗が強いストレスを感じても交代出来るよ。今日だって――」 ユウは慌てた様子で口をつぐんだ。 「今日?」 「いつものことだよ。さっきも話したでしょ?母親の話……」 気まずそうな笑顔に、中庭での会話が蘇った。 「そうだったね、ごめん……」 顔の怪我、今日の話……合わせて考えれば、今日も例外ではないことぐらい、 簡単に想像がついたはずなのにね、馬鹿だったよ。 落ち込む俺の肩に、ユウはそっと手を置いた。 「僕はね、蒼生との時間があるから、何だって我慢出来るんだよ」 「え……」 「1秒も無駄にしたくないんだ。だからさ……」 「!」 不意打ちだった。ネクタイを引っ張られ、キスをした。唇から広がる、甘い痺れ……我慢できるわけがないよ。 腕をユウの背中にまわして抱き寄せると、より深くキスをした。 静かな部屋の中で、キスをする微かな音だけが聞こえた。 愛しさって、どこまで膨らむのかな? 手が、唇が、ユウを求めて勝手に動くんだ。 そして触れれば触れるほど、愛しくてたまらなくなる。 「蒼生……すき……」 「ユウ……」 でも、名前を呼ばれて我に返った。普通の恋人なら、このまま押し倒して愛を深めていけるのにね……俺は躊躇った。 ユウの複雑な状況を、何一つ解決してやれていないのに、こんなことをしていて良いのかと、迷ってしまったんだ。 「俺も好きだよ」 だから、我慢できなくなる前にと、身体を離した。が―― 「やめないで……」 再びユウがネクタイを引っ張った。 「もっとキスしたい」 「キスだけじゃ済まないかもよ?」 「いいよ」 ギリギリだった理性はプツンと切れたよ。ユウの髪に手を差し込み、引き寄せ、キスをした。 さっきよりも激しく、優しくね……。 ゆっくりと学ランのボタンをはずし、脱がせると、そっと床へ落した。 動きづらいし、俺も素早くジャケットを脱いだよ。ネクタイを緩めながら、ユウを見つめる。 「暑いね」 「うん」 そして笑った。なんか、今の状況が可笑しくてね。笑いながら、お互いのシャツのボタンをはずした。 「すごくドキドキする」 「俺もだよ」 ユウの手のひらが、そっと俺の肌に触れる。俺も、ユウに触れた。 「どうして……」 「ん?」 「どうして僕の身体は、全部僕のものじゃないんだろうね……」 「ユウ……」 ユウの目から、涙がこぼれた。 「怖いんだ」 「ユウ……」 「特にね、今みたいに幸せすぎるとね、すごく怖いんだ」 幸せになればなるほど、自分が存在する意味を考えてしまうのだろうか。 他人より自由に過ごせる時間が少ない分、もどかしく思うのだろうか。 いつ消えるか分からない恐怖を感じてしまうのだろうか。 ユウの少ない言葉から、色々と考えさせられてしまった。 色々抱え込んでいる。苦しんでいる。なぜユウばかり苦しむ必要があるのか。 優斗は、いったいどんな人物なのだろうか……。 「門限だ……」 その時、ユウが呟いた。 「え?」 「ごめん、優斗と交代するから、横になってもいい?」 ユウはシャツのボタンをとめながら、申し訳なさそうな顔をした。 「……わかった。おやすみ、ユウ」 「ごめんね……」 そしてユウは気絶するようにベッドに倒れ込んだ。 俺は、そっとタオルケットをかけて、ユウのおでこにキスをした。 はずしたばかりのシャツのボタンをとめて、ネクタイを結ぶ。 今から優斗に会うからね、俺は気持ちを切り替えた。

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