29 / 84

【10/和馬】和馬と蒼生②

「ユウと付き合ってるって、本当か?」 用意されたグラスは使わず、コーラを瓶から一口飲んだ。 「あぁ、本当だよ」 蒼生はさらさらと紅茶に砂糖を入れた。 「二重人格のことは?」 「昨日知った」 「昨日?」 意外だった。もっと前から知っていると思い込んでいたからだ。 「昨日の朝にね、ちょっと……で、ユウが説明してくれたって感じかな」 「なら、優斗のことは?」 「それも知ったばかりさ」 「そうか……」 それが本当なら、なぜこんなに落ち着いているのか。 蒼生が優雅な手つきでカップを口元へ運ぶ。何を考えているのか、さっぱり分からなかった。 「これからどうするつもりだ?」 今日の目的を口にする。 もし、このままユウとの関係を続けるつもりなら、こちらにも考えがある。 「ユウのいない人生なんて考えられない」 カップをそっと置くと、蒼生は伏し目がちにそう言った。 オレは無言で言葉の続きを待つ。 「でも、だからって、何をどうすることも出来ないだろう? 俺は流れに身を任せるよ」 僅かに首を傾げて微笑んだ。 この余裕は何なのか……確認せずにはいられない。 「なら、優斗の治療の邪魔はしないってことか?」 「邪魔も協力もしないよ」 「ユウとの関係は?」 「今のままさ。何も変えない、変わらないって決めたよ」 「別れる気はないってことか……」 瓶を握る手に力がこもる。 「別れる必要がどこにあるんだい?」 「優斗の気持ちはどうなる?」 「なら、ユウの気持ちは?」 オレは優斗を、蒼生はユウを想っている。 話し合うだけ時間の無駄だと判断し、質問を変えた。 「ユウの人格が消えたらどうするんだ?」 蒼生は一瞬動きを止めたが、それを誤魔化すように外を見た。 「どんな治療をするのか知らないけどね、そんなにすぐ消えるものなのかな?」 確かに、まだ病院に行ってもいない。 気が早いと言われればそれまでだ。だからオレは何も言い返さず、黙って蒼生を見つめた。 「人はいつか死ぬ」 「ん?」 「俺が先に事故で死ぬ可能性もあると考えたら、怯えながら付き合うなんて馬鹿らしいと思ってね」 人間いつ死ぬか分からない。ユウがいつ消えるかも分からない。 確かにそうだが、実際そう簡単に割り切れるものではない。だが―― 「だから普通に、今まで通り過ごすって決めたんだ」 蒼生の目を見る。瞳の奥に揺らめく不安と哀しみ……あぁ、こいつは強がっているんだと気付いた。 強がりながら、必死にそうあろうと努力しているに違いなかった。 ユウのために前向きに過ごそうとしている、その気持ちが見て取れた。 オレはふと不安になった。優斗のことを知った以上、今後は優斗にも会うことがあるだろう。 ならいつか、優斗の心もこいつが持っていってしまうのではないか? オレが優斗に触れ、愛を囁ける日なんて来ないのではないか?  胸が苦しい。そんな気持ちを押し流すようにコーラを飲んだ。 「俺からも1つ、いいかな?」 「あぁ」 「和馬くんは、ユウのことをどう思っているんだい?」 「それは――」 ユウは優斗のもう一つの人格、それだけだと答えようとした。 「ユウ!」 が、急に蒼生が立ち上がった。つられてオレも振り返る。そこには優斗が立っていた。

ともだちにシェアしよう!