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【10/和馬】和馬と蒼生②
「ユウと付き合ってるって、本当か?」
用意されたグラスは使わず、コーラを瓶から一口飲んだ。
「あぁ、本当だよ」
蒼生はさらさらと紅茶に砂糖を入れた。
「二重人格のことは?」
「昨日知った」
「昨日?」
意外だった。もっと前から知っていると思い込んでいたからだ。
「昨日の朝にね、ちょっと……で、ユウが説明してくれたって感じかな」
「なら、優斗のことは?」
「それも知ったばかりさ」
「そうか……」
それが本当なら、なぜこんなに落ち着いているのか。
蒼生が優雅な手つきでカップを口元へ運ぶ。何を考えているのか、さっぱり分からなかった。
「これからどうするつもりだ?」
今日の目的を口にする。
もし、このままユウとの関係を続けるつもりなら、こちらにも考えがある。
「ユウのいない人生なんて考えられない」
カップをそっと置くと、蒼生は伏し目がちにそう言った。
オレは無言で言葉の続きを待つ。
「でも、だからって、何をどうすることも出来ないだろう? 俺は流れに身を任せるよ」
僅かに首を傾げて微笑んだ。
この余裕は何なのか……確認せずにはいられない。
「なら、優斗の治療の邪魔はしないってことか?」
「邪魔も協力もしないよ」
「ユウとの関係は?」
「今のままさ。何も変えない、変わらないって決めたよ」
「別れる気はないってことか……」
瓶を握る手に力がこもる。
「別れる必要がどこにあるんだい?」
「優斗の気持ちはどうなる?」
「なら、ユウの気持ちは?」
オレは優斗を、蒼生はユウを想っている。
話し合うだけ時間の無駄だと判断し、質問を変えた。
「ユウの人格が消えたらどうするんだ?」
蒼生は一瞬動きを止めたが、それを誤魔化すように外を見た。
「どんな治療をするのか知らないけどね、そんなにすぐ消えるものなのかな?」
確かに、まだ病院に行ってもいない。
気が早いと言われればそれまでだ。だからオレは何も言い返さず、黙って蒼生を見つめた。
「人はいつか死ぬ」
「ん?」
「俺が先に事故で死ぬ可能性もあると考えたら、怯えながら付き合うなんて馬鹿らしいと思ってね」
人間いつ死ぬか分からない。ユウがいつ消えるかも分からない。
確かにそうだが、実際そう簡単に割り切れるものではない。だが――
「だから普通に、今まで通り過ごすって決めたんだ」
蒼生の目を見る。瞳の奥に揺らめく不安と哀しみ……あぁ、こいつは強がっているんだと気付いた。
強がりながら、必死にそうあろうと努力しているに違いなかった。
ユウのために前向きに過ごそうとしている、その気持ちが見て取れた。
オレはふと不安になった。優斗のことを知った以上、今後は優斗にも会うことがあるだろう。
ならいつか、優斗の心もこいつが持っていってしまうのではないか?
オレが優斗に触れ、愛を囁ける日なんて来ないのではないか?
胸が苦しい。そんな気持ちを押し流すようにコーラを飲んだ。
「俺からも1つ、いいかな?」
「あぁ」
「和馬くんは、ユウのことをどう思っているんだい?」
「それは――」
ユウは優斗のもう一つの人格、それだけだと答えようとした。
「ユウ!」
が、急に蒼生が立ち上がった。つられてオレも振り返る。そこには優斗が立っていた。
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