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【10/和馬】和馬と蒼生③

「優斗、帰れって言っ……」 違う、優斗じゃない。 「ごめん、来ちゃった」 歩み寄り、当然のように蒼生の隣に座ったユウに、胸が痛んだ。 「体調は? 大丈夫かい?」 蒼生がユウの頭をそっと撫でる。 「うん、蒼生こそ、和馬くんに酷いこと言われたりしなかった?」 ユウが蒼生のブレザーをつかむ。 自然にいちゃつく2人に、無性に腹立たしい気分になり、睨みつけた。 「大丈夫だよ。優斗の彼の気持ちも分かるしね」 「和馬くんはただの友達だよ。告白できないチキン野郎だから」 「おい」 ユウは蒼生に抱きつきながら、オレに向けてべーっと舌を出した。 「ユウ、いい加減にしろよ」 「和馬くんこそいい加減にしてよ! 勝手に蒼生に会うとか信じらんない!」 「おまえなぁ、優斗の身体でそういう事していいと思ってんのか?」 「ユウの身体だし! 羨ましいからって煩いなぁ」 「ユウ!」 持っていたコーラの瓶を、テーブルに叩きつけるように置いた。 大きな音が店内に響き、注目を集める。 気まずくなった空気を変えるように、蒼生が口を開いた。 「2人は仲が良さそうだね」 「は?」 「僕は和馬くんなんて大嫌いだ!」 「喧嘩するのは仲良しの証拠だろう? 少し羨ましいな」 微笑む蒼生から、彼氏の余裕を感じとり、ますます腹が立った。 「まぁ、確かに仲良しだよな。よくオレとキスしたがってたし」 「ち、違っ! ってか昔の話だしっ……」 「昔?」 蒼生が怪訝そうな顔をする。 「もうっ! 変な話しないでよっ!蒼生が勘違いするでしょっ!」 「嘘はついてない」 ニヤニヤと笑いながら昔の話をしてやった。これくらいの意地悪はさせてもらっていいと思う。 「ユウ、俺は近々、優斗を病院に連れていく」 「僕は反対だよ」 「治してやりたい」 「優斗には僕が必要なのに」 「でも、おまえの彼氏は、病院に連れていってもいいと言っていたぞ」 邪魔はしないと言っていた。つまり、連れていってもいいってことだ。 「……君の気持ちは分かるよ。だから止めないだけだ」 「蒼生……」 「ユウ、帰るぞ」 蒼生とユウは、きっとこのまま関係を深めていくだろう。 何を言っても無駄、それが分かっただけで十分だった。 「和馬くんとは帰らない」 涙ぐむ目を見て、胸が痛んだ。 無理やり連れて帰らなくても、ユウはきっとちゃんと、オレの部屋へ帰ってくるだろう。 だが、蒼生と過ごしてほしくない。こいつらを2人きりにしたくなかった。 とはいえ、オレは優斗の恋人じゃない。だからこいつらを止められない。 「……夕飯までには帰れよ」 拳をきつく握りしめる。 優斗の意思じゃない。これは優斗じゃない。必死に自分に言い聞かせた。 そして言葉を絞りだし、席を離れた。 きっとユウはしばらく帰ってこない。まだ学校は開いている時間だ。 この時間なら、きっとあいつは図書室にいる。 気は進まないが……優斗のために、オレはできることをしようと思った。

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