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【11/和馬】初診③
「昨日は大丈夫でしたか?」
オレンジ色に照らされた廊下に、鍵束の音が響く。
「別に。普通でした」
話を聞いたかどうかなんて問い詰めることはしなかったけれど、その後の優斗はいつも通りだったし、多分オレの気持ちはバレていない……と、信じることにした。
放送室の扉を開けて、中に入る。
「ってか、下校の放送ならさっきありましたけど」
神永先生の鍵当番を手伝うことになったのだが、なぜか校舎の見回りをせずに、放送室へ。
「今からすることは、私と和馬くん2人だけの秘密ですからね?」
神永先生は、真剣な顔でポケットの中を探った。
何をしようというのか……セクハラ教師の考えることが分からず、
オレは背後のドアノブを握りしめ、いつでも逃げられる状態をキープして頷いた。
「静かに……していてくださいね……」
ゆっくりとマイクをオンにする。そして、マイクの前で、そっと鈴を鳴らした。
ちりん……ちりん……っと、小さく、ゆっくりと鳴る音は、とても悲しい響きだった。
「さて、行きましょうか」
「……へ?」
「いやぁ、このひと手間で、鍵当番が楽になるんですよねぇ」
放送室を出て、階段を上っていくと、騒ぎながら慌てて帰る女子とすれ違った。
「やばいやばいやばいっ!」
「絶対聞こえたよねっ!?」
「うそ、私聞こえなかったっ!」
「七不思議、ほんとにあるんだね、まじ怖いんだけど」
七不思議……そういえば、放課後の鈴の音がどーのって話、クラスでも話題になってたっけ。
「ほらね?」
「もしかして、七不思議の鈴って……」
「はい、私が考えました☆」
嬉しそうにニコニコする神永先生に、思わず笑ってしまった。
無邪気でいたずらっ子、こういうところが生徒にモテるんだろうなと、少し分かった気がした。
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