34 / 84
【12/優斗】意識
担任の神永が、和馬と生徒指導室にいることは、職員室で聞いたから知っていた。
昨日のことを話しているなら、本人も同席するべきだと思ったし、神永にはお礼も言いたかった。だから迷わず向かったが、ドアの前まで来て躊躇ってしまった。
中が見えない。ノックして間違いだったら、怒られそうでこわいし、
やっぱり帰ろうか……そう思った時、目の前のドアが勢いよく開いた。
「和馬……」
和馬のムスッとした表情はいつものことだけれど、神永が慌てた様子で和馬の手を掴んでいるのが気になった。
僕の話をしていたわけじゃないのか……。喧嘩をしたような雰囲気だったが、明日の放課後の約束をしているところを見ると、分からなくなった。
***
「神永先生って、面白いよな」
次の日、電気を消して寝ようとすると、和馬が少し笑った。
「え?」
「今日、鍵当番を手伝った。色々話したんだけど、面白いなぁと思ってさ」
意外だった。和馬は神永みたいな適当なタイプの人間を好まないはずなのに……なぜかイラっとした。
「確かに、クラスでもよく面白いこと言ってるよ」
「だろ? 体育科はコワイ先生ばっかだし、なんか新鮮」
クスクスと笑う和馬に、複雑な気持ちを抱くのは何故なんだろうか。
担任をとられたヤキモチ……なんて感じるほどの神永教ではないし、不思議だった。
***
「優斗、帰るぞ」
「あ、和馬。お疲れさま」
暗くなった教室。鞄をつかみ、和馬に駆け寄った。
「今日は遅かった、ね……」
言いながら教室を出ると、角を曲がる人物に目がいった。間違いなく、神永だった。
「あ、あぁ。ちょっと図書室寄った」
そういえば、本を借りるようになったのは、去年の夏ごろからだったか。
和馬は神永に薦められた本を借りてくることもあった。
あんな面倒くさがり教師が、生徒の病院の付き添いなんてボランティアをするはずはないと、少し疑問だった。
神永と和馬が仲良しだと考えるとしっくりきたが……それはそれで気持ちが沈むのはなぜだろう。神永のことを、和馬がきちんと話してくれないからだろうか。
もちろん、逐一報告する必要なんてない。でも、なぜか和馬の口から聞きたいと思ってしまった。あの、隙あらばサボるダメ教師を、どうやって動かしたのか、知りたかった。
***
「オレが好きだと言ったら、嬉しいか? 困るか? どうだ?」
あの日。本気なのか冗談なのか分からず、下を向いた日。僕が感じた、微かな違和感。
和馬に好きだと言われたら嬉しいのか、困るのか……その言葉の意味を、ふと考えてしまう。
「どういう意味だろう……」
友達として好き、なら、もちろん嬉しい。
「優斗に恋人が出来たら嫌だって意味だ」
和馬の言葉を思い出す。
「僕に恋人が出来たら嫌で、理由は好きだから……ってことはつ、つまりそういう意味なのかなっ!?」
顔が熱くなるのを感じた。不思議なことに、嫌ではなかった。
蒼生とユウのことがあるから、耐性がついたのか……いや、蒼生とのキスは思い出すだけで吐き気がする。
でも和馬とのキスは……。
「あ、あれっ」
妄想してみたが、やはり嫌ではなかった。恥ずかしさに耐えられず、足をバタバタさせる。
「おまえ、何してんの?」
と、どんぶりを2つ持った和馬が、僕を見下ろした。
「な、なんでもないっ」
和馬の目が見られない。和馬は首を傾げながら、テーブルにどんぶりを置いた。今日は親子丼だ。
「とりあえず食おうぜ」
「う、うん……いただきます」
「いただきます」
***
なぜ、そんな妄想をしたのか分からない。友達とのキスシーンなんて、普通考えたりしない。
でも僕は、うっかり妄想したあの日から、和馬とのキスを何度も夢に見るようになってしまった。
きっと病気のせいだ。誰かに相談したいけれど、誰にも言えそうになかった。
ともだちにシェアしよう!