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【12/優斗】意識

担任の神永が、和馬と生徒指導室にいることは、職員室で聞いたから知っていた。 昨日のことを話しているなら、本人も同席するべきだと思ったし、神永にはお礼も言いたかった。だから迷わず向かったが、ドアの前まで来て躊躇ってしまった。 中が見えない。ノックして間違いだったら、怒られそうでこわいし、 やっぱり帰ろうか……そう思った時、目の前のドアが勢いよく開いた。 「和馬……」 和馬のムスッとした表情はいつものことだけれど、神永が慌てた様子で和馬の手を掴んでいるのが気になった。 僕の話をしていたわけじゃないのか……。喧嘩をしたような雰囲気だったが、明日の放課後の約束をしているところを見ると、分からなくなった。 *** 「神永先生って、面白いよな」 次の日、電気を消して寝ようとすると、和馬が少し笑った。 「え?」 「今日、鍵当番を手伝った。色々話したんだけど、面白いなぁと思ってさ」 意外だった。和馬は神永みたいな適当なタイプの人間を好まないはずなのに……なぜかイラっとした。 「確かに、クラスでもよく面白いこと言ってるよ」 「だろ? 体育科はコワイ先生ばっかだし、なんか新鮮」 クスクスと笑う和馬に、複雑な気持ちを抱くのは何故なんだろうか。 担任をとられたヤキモチ……なんて感じるほどの神永教ではないし、不思議だった。 *** 「優斗、帰るぞ」 「あ、和馬。お疲れさま」 暗くなった教室。鞄をつかみ、和馬に駆け寄った。 「今日は遅かった、ね……」 言いながら教室を出ると、角を曲がる人物に目がいった。間違いなく、神永だった。 「あ、あぁ。ちょっと図書室寄った」 そういえば、本を借りるようになったのは、去年の夏ごろからだったか。 和馬は神永に薦められた本を借りてくることもあった。 あんな面倒くさがり教師が、生徒の病院の付き添いなんてボランティアをするはずはないと、少し疑問だった。 神永と和馬が仲良しだと考えるとしっくりきたが……それはそれで気持ちが沈むのはなぜだろう。神永のことを、和馬がきちんと話してくれないからだろうか。 もちろん、逐一報告する必要なんてない。でも、なぜか和馬の口から聞きたいと思ってしまった。あの、隙あらばサボるダメ教師を、どうやって動かしたのか、知りたかった。 *** 「オレが好きだと言ったら、嬉しいか? 困るか? どうだ?」 あの日。本気なのか冗談なのか分からず、下を向いた日。僕が感じた、微かな違和感。 和馬に好きだと言われたら嬉しいのか、困るのか……その言葉の意味を、ふと考えてしまう。 「どういう意味だろう……」 友達として好き、なら、もちろん嬉しい。 「優斗に恋人が出来たら嫌だって意味だ」 和馬の言葉を思い出す。 「僕に恋人が出来たら嫌で、理由は好きだから……ってことはつ、つまりそういう意味なのかなっ!?」 顔が熱くなるのを感じた。不思議なことに、嫌ではなかった。 蒼生とユウのことがあるから、耐性がついたのか……いや、蒼生とのキスは思い出すだけで吐き気がする。 でも和馬とのキスは……。 「あ、あれっ」 妄想してみたが、やはり嫌ではなかった。恥ずかしさに耐えられず、足をバタバタさせる。 「おまえ、何してんの?」 と、どんぶりを2つ持った和馬が、僕を見下ろした。 「な、なんでもないっ」 和馬の目が見られない。和馬は首を傾げながら、テーブルにどんぶりを置いた。今日は親子丼だ。 「とりあえず食おうぜ」 「う、うん……いただきます」 「いただきます」 *** なぜ、そんな妄想をしたのか分からない。友達とのキスシーンなんて、普通考えたりしない。 でも僕は、うっかり妄想したあの日から、和馬とのキスを何度も夢に見るようになってしまった。 きっと病気のせいだ。誰かに相談したいけれど、誰にも言えそうになかった。

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