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【15/和馬】誤解①

下校時刻の薄暗い図書室。 「犯罪者!」 開口一番、言ってやった。だが神永先生は、キョトンとした顔で首を傾げる。 「何も言わずに変なもの飲ませて、洒落にならないっすよ?」 「ちゃんと言いましたよ? リラックスできる飲み物ですって」 「全っっ然リラックスしてねぇし!」 胸倉を掴み、本棚に押し当てる。 思いっきり睨んでやったが、神永先生は笑っていた。 「でも、楽しめたでしょう?」 「は?」 「相手が私じゃなくても、和馬くんが気持ち良かったなら――」 「ただの拷問だっっ!!」 神永先生の肩を強く掴んで揺らした。 「え、優斗くんとシてないんですか?」 「するわけない」 「……なら、お詫びに今どうです? お相手しますよ?」 「先生がしたいだけっすよね?」 「そうかもしれませんね」 「……オレをガッカリさせないでください」 投げ捨てるように手を離す。神永先生は、軽く服装を整えた。 「元々期待させるような、優秀な教師でしたか?」 「それは……」 余裕のある表情がムカつく。が、これでイラついたら負けな気がする。グッと堪えて、大人な対応を意識した。 「とにかくっ! 先生と生徒、オレはそれ以上の関係を望むことはないんで」 「今は無理でも、そのうち気が変わるかもしれませんし……」 「先生はオレの好みじゃないっす」 「酷いなぁ。これでも結構モテるんですよ?」 確かに学生に人気なのは知っている。 顔だって、整っているとは思う。だが無理なものは無理だった。 「……仕方ない、奥の手を使います」 「何すか?」 「今、ここで、キスしてください」 「はぁ?」 「キスしてくれないなら……優斗くんがちゃんとお家に帰るよう、指導します」 「はぁ!?」 殴りたい気持ちを必死に堪えた。 「そんなことをしたらどうなるか――」 「でも学校としては、お友達の家に入り浸るのは見過ごせません」 「事情がある」 「どんな家庭にも少なからず問題はあるものです」 「……本気で言ってんのか?」 本棚に手をつき、至近距離で睨んでやった。声も自然と低くなる。 「和馬くんのキスが欲しいだけです。可愛い我儘でしょう?」 「……昨日のこと、オレが学校に言ったらどうなると思う?」 「男が男に媚薬を盛ったと? 先生方が信じると思いますか?」 「オレが泣き寝入りすると思うか?」 「私は別にクビになっても困りません。でも、和馬くんは困るでしょう?」 クスクスと可笑しそうに笑う神永先生に、嫌悪感が膨らむ。 「和馬くんは、きっと私にキスをします……」 神永先生は、己の欲に正直なタイプだし、多分本気だ。 ここでキスをしなかったら、本当に優斗がオレの部屋に来られないようにするだろう。 それだけは避けたい。でも―― 「キスだけで我慢すると言ってるんです、優しいでしょう?」 「脅してキスして嬉しいですか?」 「好きな子とキスするんですから、嬉しいに決まってるでしょう」 キスだけなら……いや、それは神永先生の思うつぼだ。でも……。 「ほら……」 オレの首の後ろに、神永先生の両手が回された。やんわりと頭を引き寄せる力に、ずるずると飲みこまれ始めた時だった。ばさっと本が落ちる音に、慌てて振り向いた。 「あ……ご、ごめ……」 「優斗っ」 「お、おじゃましました……」 オレは神永先生の腕を振り払い、走り去る優斗の後を追った。

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