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【16/優斗】病院①
うねった並木道の奥に、別世界のようにぽつんと建っている病院、石鍋クリニック。診察室の椅子に座り、窓の外の花々を、うんざりした思いで見つめていた。
「もっとユウ君のことを知りたいわ」
石鍋先生が、ペンを止めて口を開く。綺麗に歳を重ねた上品なおばさん先生に、ゆっくりと視線を戻した。
「会って話がしてみたいの。できるかしら?」
機械的な微笑みに不満を感じる反面、こんなもんかとも思う。控えめなデザインながらも高そうなピアスや指輪、ネックレスなんかを見ると、儲かっているんだなと思わずにはいられなかった。
「僕が寝ている時に出てきているみたいなので、寝れば会えるかもしれません」
「そう……なら、今度時間を作って試してみましょうか」
「はい」
僕はいつでもどこでも眠れるタイプだ。だけど先生は、そう簡単にユウには会えない気がした。なんとなく、そう感じた。
「今日は優斗君が知っている範囲で、ユウ君のことを教えてもらえるかしら?」
「はい」
返事をしたものの、話すことはあまりなかった。寝ている間に動いて、男の恋人を作っていた事くらいしか知らないからだ。
「勝手なヤツです。恋人だって作ったし……」
「あら、それは優斗君も知っている子?」
「いえ、他校の知らないヤツでした」
静かな部屋に、再びペンの走る音が響く。
「優斗君は恋人いるの?」
「いません」
「ユウ君の恋人のこと、どう思う?」
「好みじゃありません」
「なるほど、ユウ君とは異性の好みが合わないのね」
何が可笑しいのか、先生はクスクスと笑った。
恋人は異性ではなく同性なわけだが、まだそれを告白できるほど心を開いていない。
「はい」
だから僕は、先生の言葉を訂正しなかった。
「ユウ君の恋人とは、話したことがあるの?」
「少しだけなら」
「面識はあるのね。なら、一度話を聞いてみたらどうかしら?」
「えっ」
「ユウ君がどんな子か、知りたいと思わない?」
「それは……」
「ユウ君を知って、もしユウ君と良好な関係を築けたら、楽になると思わない?」
確かにどんなヤツなのか、少し気になりだしていた。でも――
「その逆になる可能性の方が高いです」
「悪くはならないわ。そのために私がいるんだもの」
親身な言葉を聞き流す。でも、先生から言われたからというわけではないが、ユウのことをもう少し知っておくべきなのは確かだと思った。途切れた記憶を埋めてみれば、少しはこの不安感が薄れるかもしれない。
だから僕は、蒼生の話を聞いてみようと思った。
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