41 / 84

【16/優斗】病院①

うねった並木道の奥に、別世界のようにぽつんと建っている病院、石鍋クリニック。診察室の椅子に座り、窓の外の花々を、うんざりした思いで見つめていた。 「もっとユウ君のことを知りたいわ」 石鍋先生が、ペンを止めて口を開く。綺麗に歳を重ねた上品なおばさん先生に、ゆっくりと視線を戻した。 「会って話がしてみたいの。できるかしら?」 機械的な微笑みに不満を感じる反面、こんなもんかとも思う。控えめなデザインながらも高そうなピアスや指輪、ネックレスなんかを見ると、儲かっているんだなと思わずにはいられなかった。 「僕が寝ている時に出てきているみたいなので、寝れば会えるかもしれません」 「そう……なら、今度時間を作って試してみましょうか」 「はい」 僕はいつでもどこでも眠れるタイプだ。だけど先生は、そう簡単にユウには会えない気がした。なんとなく、そう感じた。 「今日は優斗君が知っている範囲で、ユウ君のことを教えてもらえるかしら?」 「はい」 返事をしたものの、話すことはあまりなかった。寝ている間に動いて、男の恋人を作っていた事くらいしか知らないからだ。 「勝手なヤツです。恋人だって作ったし……」 「あら、それは優斗君も知っている子?」 「いえ、他校の知らないヤツでした」 静かな部屋に、再びペンの走る音が響く。 「優斗君は恋人いるの?」 「いません」 「ユウ君の恋人のこと、どう思う?」 「好みじゃありません」 「なるほど、ユウ君とは異性の好みが合わないのね」 何が可笑しいのか、先生はクスクスと笑った。 恋人は異性ではなく同性なわけだが、まだそれを告白できるほど心を開いていない。 「はい」 だから僕は、先生の言葉を訂正しなかった。 「ユウ君の恋人とは、話したことがあるの?」 「少しだけなら」 「面識はあるのね。なら、一度話を聞いてみたらどうかしら?」 「えっ」 「ユウ君がどんな子か、知りたいと思わない?」 「それは……」 「ユウ君を知って、もしユウ君と良好な関係を築けたら、楽になると思わない?」 確かにどんなヤツなのか、少し気になりだしていた。でも―― 「その逆になる可能性の方が高いです」 「悪くはならないわ。そのために私がいるんだもの」 親身な言葉を聞き流す。でも、先生から言われたからというわけではないが、ユウのことをもう少し知っておくべきなのは確かだと思った。途切れた記憶を埋めてみれば、少しはこの不安感が薄れるかもしれない。 だから僕は、蒼生の話を聞いてみようと思った。

ともだちにシェアしよう!