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【19/蒼生】月光②
「ねぇ、あおぴー」
優斗が遠慮がちにベッドへ潜り込む。母の影響で、すっかり“あおぴー”が定着していた。
……呼んでみたくなる気持ちは分かるんだ。みんなそうだからね。だから友達を母に会わせたくないんだよ。高校生にもなってあおぴーって……俺は額に手を当てた。
「あおぴーはやめてくれないか?」
「気に入っちゃった」
優斗が笑った。
「あおぴーって、呼びやすいよ」
優斗がこんな風に笑うのは、初めてだった。
少し心を開いてもらえたような気がして嬉しかったのかな。あおぴーって呼ばれるのは嫌なはずなのに、なぜか口元が緩んだ。
「ってかさ、本当に僕がベッドでいいの?」
「構わないよ」
「あの……服も借りちゃったし、本当に色々ありがとう」
「どういたしまして」
俺も来客用の布団で横になると、リモコンを操作して部屋の電気を消した。
「ねぇ」
「ん?」
「……やっぱいいや、おやすみ」
「おやすみ、優斗」
***
優斗が眠れば、ユウに会える可能性がある。俺はその時をじっと待った。やがて優斗から寝息が聞こえてくると、俺は起き上がり、ベッドの端に座った。
月明かりに照らされた寝顔を、そっと撫でる。寝ている時だけは、優斗でありユウでもあると感じた。
「こうやって寝顔を眺められただけでも嬉しいよ、ユウ……」
このまま朝まで、ユウが目を覚まさなかったとしても、俺は嬉しいよ。図書館から抜け出せたのだから、俺たちの関係は確実に成長している。俺が優斗と友達になれば、いつか旅行だって出来るかもしれないと思った。
「なんで笑っているの?」
「ユウ」
頬に触れた俺の手に、ユウの手が重なった。会えた喜びに、胸が震える。
「旅行の計画を立てていたんだ」
曖昧な言葉は使いたくなかった。いつかなんて言わなければ、叶う気がしたんだ。
「どこへ行くの?」
「ユウはどこへ行きたい?」
「んー……ありすぎて悩んじゃうな」
無邪気な笑顔が愛しくて、思わずキスをした。
「蒼生はどこへ行きたい?」
「海外! なんて言ったら現実的じゃないね。とりあえず近場の温泉から始めようか」
「なにそれ、おじいちゃんみたい」
「美味しいものを食べて、露天風呂に入って、川のせせらぎを聴きながら語り、心地よい風の中で読書をするんだ」
想像する。時間の流れをゆっくりと感じながら、何も考えずにユウと2人で過ごせたら……もう少し大人になったら、きっと叶えようと思った。
「鹿はいる?」
「きっと窓から見えるさ」
「なら、ボクたちは鹿に乗って異世界へ行くことになるかも。ねぇ、どんなチートで行く?」
「ユウは何でもファンタジーにしてしまうね。んーそうだな……」
優斗のことを知ってからも、俺たちの関係は変わらなかった。クスクスと笑い合いながら、とりとめのない事をたくさん話した。
このまま朝まで、眠らずに話したかったけれど、やがてゆっくりと睡魔は訪れた。
「ねぇ蒼生、一緒に寝たい」
眠そうな目で、くたりと俺の胸にもたれるユウ。
「いいよ、あっちで寝ようか」
「うん……」
一緒にベッドから滑り落ちて、隣に敷いた布団へ潜り込んだ。
これで朝、優斗は文句を言えないはずだ。自分から俺の布団へ潜り込んだことになるからね。
「ほら……」
腕枕をすると、ユウは嬉しそうにギュッと抱きついてきた。眠気と熱と心地良さが混ざり合い、満たされた心で抱きしめ返す。
「ユウ」
「ん?」
「大好きだよ」
「ボクも、だいす……き……」
眠ってしまったユウの髪を撫でる。こんな日が続けばと、願わずにはいられなかった。
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