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【22/優斗】身体②

和馬に会いたくなった。 1日経って落ち着いてみると、なぜ和馬の話に聞く耳を持たなかったのか不思議でならなかった。和馬は僕を追いかけてくれたのに、僕は突き飛ばした。 「謝らなくちゃ」 ユウの事、神永の事……聞きたいことは山ほどある。でも、とにかく会って謝ろうと思った。 遅めの朝食を済ませると、僕は和馬の家へ向かった。 *** チャイムを鳴らしたけれど、反応がない。ふと、大会が近いことを思い出した。和馬は部活に行ったのかもしれない。 ポストの暗証番号をまわし、鍵を取り出す。部屋の中で待つつもりだった。 「……っ!」 ドアを開けると、視界に足が飛び込んだ。 よく見るとそれは、ジャージ姿の和馬だった。テーブルの隣に仰向けで倒れている。 「和馬っ!?」 鞄を放り出し、慌てて駆け寄った。 「和馬?」 ピクリとも動かない和馬の頬や首に触れる。温もりはあった。脈も確認できた。だが、起きない。目の前が真っ暗になった。 「和馬……和馬っ!」 昨日、馬鹿な事を考えたり逃げたりせず、ちゃんとここへ帰っていれば、和馬の不調に気付けたはずだ。もし、和馬に何かあれば、僕は一生自分を許せない。 「和馬っ!」 和馬を揺する。もし、目を覚まさなかったら……不安に押しつぶされそうになりながら、祈るように名前を呼んだ。 *** 僕は、自分のことが良く分からない。 蒼生にキスをされたあの日、吐き気がするほど嫌だった。男同士でありえないだろ?って思ったし、とにかく気持ち悪かった。 でも、最近の僕は、和馬とならキスできる……いや、したいと思うようになった。 話しが合う、尊敬している、感謝している、そんな大切な友人である和馬に対して、独占欲を感じ始めたのは、いつからだったか。 僕は、今まで恋愛なんてする余裕がなかった。高校生になり、家に帰らなくなり、心に少しだけ余裕ができたせいで、そういう欲が身近な和馬に向けられてしまったのかもしれない。助けてくれた和馬への感謝が、歪んだのかもしれない。 こんなにも優しく、同じ目線で隣に立ってくれた人は初めてだった。僕は不完全な人間だから、和馬に対する好意を全て、脳が恋愛に変換してしまっているのかもしれない。 だから、自分の感情に自信が持てなかった。 日に日に苦しくなる胸、気付けば触れようとしてしまう手、姿を追ってしまう目……僕は、自分の気持ちに戸惑った。 「ねぇ和馬……どうして僕は、和馬とキスがしたいの?」 和馬はキスで教えてくれた。本当は分かっていた、質問の答えを。単純に、最上級に、嬉しかった。好きだという気持ちが一気に噴き出す。 「優斗もオレのことが好きなんだな?」 「うん、そうみたい……僕も和馬が好き」 和馬も僕が好き。それが嬉しくて……嬉しすぎて、夢じゃないかと思った。 そして何度もキスをした。和馬に求められることが嬉しかった。和馬が求めることには全部答えたいし、何をされても嫌じゃないと思った。なのに―― 「……っ!」 和馬の大きな手のひらが、シャツのボタンを器用にはずした。肌を滑る優しい手の感触が、やがて虫が這うような不快な感触に変わっていく……。母親のそれと重なり、気持ちがマイナスな感情に塗り替えられていった。 「……っあ……んっ」 あんなにも嬉しかったキスまで、吐き気を誘う。 「か……ずまっ……」 涙が止まらなかった。和馬のことが大好きなのに、和馬が求めることには全部答えたいのに。なのに身体が邪魔をする。 「優斗ごめん、我慢できない……」 「和馬、大好き」 気持ちを言葉にした。和馬に伝えるためではなく、身体に分からせるために。でも―― 「大好きなのに……大好きなのにっ……ごめ……」 いつものように、深い眠りに落ちるように、意識は遠いた。

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