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【26/蒼生】卒業①

大きな窓から雨の交差点を眺める。そして、去年の今頃を思い出していた。 右手のひら、親指と人差し指の間……もう傷はないそこを、そっと撫でる。痛む気がするのは、今でも俺が、優斗に償いきれていないからだった。 *** 「僕なんか消えちゃえば……」 優斗は小さくなって、震えていた。 「僕が消えれば、あおぴーもユウも……和馬だって……」 ユウと好き勝手に過ごし、それが優斗にバレたなら、優斗は俺たちを責めると思っていた。初めて会った時のように、言いたい事をぶつけてくると思っていたんだ。 だけど違った。 消えたいと呟きながら、どんどん表情を失っていく優斗……取り返しがつかない程深く、彼の心を傷を付けてしまったことを知ったよ。 「分かった、迎えに行く」 廊下で和馬くんに電話をして……部屋に戻ると、優斗は手首にペーパーナイフを押し当てようとしていた。 「優斗っ!」 俺は慌てて駆け寄り、咄嗟に右手でペーパーナイフを奪った。叔父のフランス土産のそれは切れ味が鋭く、俺の親指と人差し指の間を簡単に裂いた。 「何をしようとしたんだい?」 右手が熱い。優斗は口を開かない。 「今日のことは謝るよ。俺とユウが悪かった……」 シャツの袖口が血で染まっていく――。ショックだった。 ペーパーナイフなんかじゃ簡単には死ねない。それでも身近な凶器に手を伸ばし、自身を傷つけたくなったんだろうね。優斗の目を見れば分かるよ。パフォーマンスではなく、本気だった。 「……もし、そのナイフで」 やがて抑揚のない声で、どこを見ているのか分からない目で、優斗は話し始めた。 「僕だけを殺せるなら……迷わず刺すだろ?」 「そんな事、しないよ」 「でも……僕は邪魔だろ?」 邪魔なわけないだろう? なんて言っても、空々しいだけだった。 ユウの裏側にいる優斗を、俺は見ないようにしてきた。俺の中では別人だったし、ユウはユウ、優斗は優斗、それでいいと思っていたんだ。だけど……間違いに、気づかされた。 優斗の気持ちを無視するべきではなかった。彼を追い詰めたのは……俺だった。

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