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【27/和馬】新生活
「このお皿、どこに置く?」
「あぁ、ここの棚の――」
「わわっ!」
「おっと、大丈夫かい?」
背の低いユウが棚に手を伸ばし、見事に転びかけた。蒼生が腰を支えて助けて……今、2人は無駄に見つめ合っている。
「日が暮れる」
イラついたオレは、食器棚の整理に無理やり混ざりこんだ。
「ちょっと和馬!自分の部屋でも片付けてればいいじゃん!なんで邪魔するの!?」
「邪魔しなけりゃ片付かない」
「ちゃんとやってるもんね!」
「手が止まってる」
「こんなちょっと止まっただけで――」
「ってかなんで初日からユウなんだよ」
「知らないよ!ボクの意思で切り替わっているわけじゃないんだから!」
オレとユウは、一度言い合いを始めたら長い。
「じゃ、ここは君たち2人にお願いするよ」
蒼生は呆れの混じった笑みを浮かべて、自室へ消えていった。
***
「じゃーん♪」
夕方、蒼生の母親がピザを持って現れた。ルームシェアの件で1度だけ会った事があるが……相変わらず元気な人だった。
「夕食の差し入れよっ♪」
リビングのテーブルにLサイズのピザが2枚並ぶ。蒼生は棚からグラスを取り出した。
「うわぁ!美味しそう!」
ユウは目を輝かせている。
「ありがとうございます」
オレは座りながらお礼を言って、ペットボトルのフタを開けた。
「やっぱ若い子には、ピザとコーラよねっ!あ、ママだけはビールを飲ませてもらうわよ? だって息子が2人とも家から出ちゃったのよ? 大人になったなぁ?ってしみじみしながら飲みたいじゃない? それにあおぴーったら、こんな素敵なお友達とルームシェアすることになって、ママとっとと酔っ払って根掘り葉掘り聞きたいわぁ♪ あおぴーが親に見せない一面をチラ見せプリーズっ 」
「お母さん」
蒼生がたしなめるように母親を呼んだ。
「ごめんごめん、お口にチャックね!了解よ、あおぴー。ママはあなたたちをつまみに飲むわね」
蒼生の母親は親指と人差し指をくっつけて、口の前でファスナーを閉じる動きをした後、ビールのフタを開けた。
「じゃあ、乾杯しようか」
「少なくとも2人が卒業するまでは一緒だもんね!」
「あぁ、そうだな」
「じゃ、4人の新たな生活に乾杯!」
蒼生がグラスを掲げ、オレとユウ、蒼生の母親もそれに倣った。
「あおぴーったら、ママも入れてくれたの? 優しいわね♪」
4人の意味が伝わらないということは、多分蒼生の母親は、優斗の病気のことを知らないんだろうな。
お口のチャックが壊れた母親の話を聞きながら、オレ達はピサを食べた。
***
電気を消して、ベッドに入る。以前は虫の音を聞きながら眠りについたものだが、今日からは車の音だ。
まだダンボールはあるが、とりあえず生活はできる状態になった。入学まであと5日もあるし、明日からは優斗のバイト探しでも手伝うか……そんな事を考えながら、天井を眺めていた。
「和馬……」
と、静かにドアが開いた。
「優斗……やっと入れ替わったか」
オレは起き上がり、優斗が座るスペースをつくった。
「引越しの片付けを手伝えなくてごめん……」
「気にするな」
優斗がオレの隣に、そっと座った。
「ねぇ和馬」
「ん?」
「一緒に寝たい」
不安そうな表情の優斗の頭を、そっと撫でる。
「あぁ」
そしておでこにキスをした。
「蒼生には秘密だぞ」
「卒業したら解禁の約束だから大丈夫」
「そうか……そうだったな」
恋人とはキスまで、ただし高校を卒業したら、各自ご自由に。優斗とユウが交わした約束だった。
これから蒼生は……いや、考えるのはやめよう、苦しいだけだ。オレはオレで、優斗との時間を大切に過ごせばいいだけだ。
「ほら……」
布団に入りスペースを確保すると、すぐに優斗も潜り込んできた。
「あったかい」
優斗がクスクスと笑う。
「だな」
腕枕をして抱きしめる。
シングルベッド狭い。でも、それがたまらなく心地よかった。
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