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第2話
「あの、有難うございました」
「え?あぁ……」
シャワーを浴び終わり、俺の服に着替えた染井君は、タオルで頭を拭きながら仏頂面でお礼を言ってきた。
もし俺が上司の家でシャワーを借りたら、馬鹿みたいに頭を下げて、申し訳ない顔で何回も謝るけどな。
ま、別に俺は心狭くないからいいんだけど。
「……」
「……」
拭き終えた染井君は何故か俺の隣に座って、そのまま終始無言。
この子の考えがまるで読めない。
「あぁ~えっと……それでさ。傘、何でさしてなかったの?」
無言に耐え切れず出た言葉がコレだった。
多分これは聞いちゃいけないヤツだって、なんとなく空気で分かってはいたのだけど。染井君と居ると、俺まで普通の考えが出来なくなってしまう。
「……さしてないと、悪いんですか?」
うわぁ~。明らかに機嫌悪い。
「い、いや。別に悪いってわけじゃ……ないんだけどね。ほ、ほら。人の目とか気になるし」
「……人の目?」
「あぁ~というかさ、染井君。仕事でも人の目とか気にならない?ほら。こういっちゃなんだけど、残業しないし……出勤もギリギリだし。上司の誘いも絶対断るし」
「それって、悪い事なんですか?」
「え?あ、いや……悪くは……ないんだけど。ほら……普通じゃない。というか……社会のルールとしては間違ってる……というか」
自分で言ってて、何故だか胸が苦しくなってくる。
別に、間違ったことは言ってないはずなのに。
「……なんですか。それ」
「え?」
急に視界がグラついたと思ったら、背中に打ち付けた痛みが走った。
「いったぁあ……」
気が付けば俺は染井君に馬乗りにされ。いつもとは違う、少しキツイ目で見下ろされていた。
俺よりも細くて、俺よりも身長の低い年下の部下に、俺は簡単に押し倒されてしまったというのか……。
「流石に若い子の力には負けるってことか」
いや。今はそんな事よりも。
なんだこの状況。
「えっと……染井君?」
もしかして俺、殴られちゃう?
とか思って、歯を食いしばって身構えていると。染井君の手は拳に握られる事無く。何故かそのまま俺の服の中へと侵入し始めてきた。
「……え?」
「普通だとか。常識だとか。ルールだとか。そういうのもううんざりだ」
今にも泣きそうな顔をしながら、彼はいきなり俺の唇を奪ってきた。
「っ!!??んんっーー!!んっ」
まるで咀嚼している様な、強引で乱暴で濃厚なキス。
何度も何度も角度を変えてきながら、舌で俺の口を無理矢理開かせて、そのまま中を掻きまわしては、唾液や舌を絡ましてくる。
これじゃ、いつ息を吸っていいのか分からない。
「っ、はっーーんんっーー」
苦しい。
頭がクラクラしてくる。
「ぁ、そ、めい、くっ」
「平田さん。あんたも普通じゃなくしてあげますよ。僕の手でね」
その瞬間。
俺はズボンと下着を一気に下にずり下ろされ、久しぶりに勃起してしまっていた自分のモノを目にして息を呑んでしまった。
確かに、あんなキスされたのは生まれて初めてだった。
けれど相手は男で、しかも自分の部下。
それなのに、どうして俺のはこんなにも反応してるんだ。
「こ、こんなの……普通じゃない」
「そう。もう貴方は普通じゃない」
意地悪な笑みを浮かべる染井君の手が、反り立っている俺のモノを握って。グリグリと先端を弄ってくる。
「ひっ、んっ!!」
びりびりとくる刺激に思わず腰が跳ねて、聞きたくもな自分の喘ぎ声が部屋に響く。
これ以上は駄目だ。異常だ。悪い事だ。
それなのにーー。
「そ、めい……くんっ」
俺の身体は、彼をもっと欲しがっている。
「っ……煽ったのは、平田さんですからね」
前髪を掻き上げ、ぎらついた目で俺を見下ろす染井君に、俺は考える事を止めた。
今はただーー欲しい物を求めて。快楽を求めて。快感を求めて。
堕ちていった。
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