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第3話
新宿二丁目の喧噪から少し外れたところにその店はある。
都会にあるにしては低く、看板も何も出ていないシンプルなビルの階段を地下へ。
階段を下りきるとドアがあり、そのドアに漸く店名が記された看板が下がっている。
「ーーナチュ」
「そ。ここで友達の兄貴が働いてる」
数日後の昼間。食堂の端に空友と伊槌は座っていた。櫻居は講義のため不在である。
伊槌がスマホで示したサイトは、ゲイバー・ナチュ。誰でも歓迎する観光バーとは違い、女性お断りの完全男性向けのゲイバー。男性はノンケでも良いらしい。
「本格的だな。秘密基地みたい」
「そりゃあ、表に看板立てずにビルの地下で営業してるくらいだし」
大変らしいよ、と伊槌はお茶を飲む。
空友は手を顎に当てた。
「ーーこういうの見るとさ、世知辛い世の中だよな。同じように人を愛したいだけなのに、性別が同じってだけで偏見を持たれるなんて」
「だな。その知り合いの人……茶郷(さごう)さんっていうんだけど、茶郷さんもいろいろ苦労してるみたい。時折メッセージやりとりするけど、カミングアウトされるまではスゲー大人しい人だった。きっとストレスため込んでたんだと思う」
伊槌はメッセージアプリのconnectの履歴を遡る。
聞くに茶郷さんは大学のOBらしい。そのため相談事によく乗ってもらっていたそうだ。その内ひょんなことで恋愛の話になり、ややあって打ち明けられたのだとか。
「きっとさ、野間が言ってた、困ったときはゲイバーがイイって話、そういういろんなこと乗り越えてきた人たちだからこそ良い助言もらえるってことなんだろうな」
「ーーなるほど。でも確かに俺、オカマの人が相談乗ってるのテレビで見たことあったからなんとなく興味湧いたのかも」
「っはは、まあゲイバーに必ずオカマがいるとは限らないけど」
「そうなのか!? あ、いや……確かに受ける人ばっかりじゃないもんな。俺たちを男役として見てる人がいるってことは、俺たちを女役としてみたい人もいるってことか……!」
「そういうことだ」
「それでも野間からゲイバーなんて単語でるのは未だに吃驚だけどな」
「それは同じく」
ーー斯くしてこのまま話はまとまり、その流れで大学終わりにナチュに行くことが決まったのであった。
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