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2話
『作りに行きましょうか?』
買いだめしたカップラーメンをすすっている最中にも彼の声が――会話が頭の中をループする。サンドウィッチを食べたばかりだから、カップラーメンにしたが、むなしさが募るばかりだ。
(反則だよ。人の気を知らずに言うなんて、ズルい)
知らず彼を思い出していると胸がざわめく。少しでも鎮めようと彼から手渡された手書きのメモを見る。角張った大き目の字に、箇条書きで必要事項が書いてある。
「結婚問題に強い弁護士、ね」
最後の一文に皐月の視線が注がれる。『梅木嵐 から聞いたと言えば、融通が利きます。』
「梅木嵐」
あめ玉を転がすように、何度も彼の名前を呼んだ。
『明日のリスト送っておいたから、買ってきて』
『了解』
見合い結婚をしたが、数年も経たずに別居して、早7年。もし離婚したら、昇格や昇進、査定に響くのではないかと思い、自分が我慢すればいいと割り切ってきた。
好きな人もいないし、次がラストチャンス(最後の恋)だと考えているせいで、尻込みしてしまう。
また妻と同じ人間に引っ掛かったらどうしようとか、こんなオッサンを好きだと言ってくれる人は、もしかして金目当てかもしれないとか。考え出したらきりがない。
ため息が屋根や窓を打つ雨音に溶ける。
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