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5話  *

「急な出張が入った。来客はすべて断ったから、仕事と光を頼む。よろしくな」  あの後、好意が終わった時ふと正気になり、自己嫌悪感と同性と行為をした自分を赦せなくて、嘉哉の誘いを断り続けていた。  だが、1週間が過ぎた頃、彼は強引な手段――1泊2日の出張に出ることになったのだ。 「潤は庭を見たか。アジサイがきれいだろう」 「はい。鮮やかな青がとてもきれいでした。まるで、光さんの虹彩みたいですね」 「だろ? 光の瞳に似た色合いやきれいな色を見かけると、買ってきていつしか増えているんだ。アジサイの花言葉は、家族団らん、寛容と言う意味がある」  ルームミラーから視線を外した。 「こういう形でもいいんだ。色々事情もあるからな」  悟ったような口調に動悸が止まらない。もしかして、自分が彼らの間柄を崩してしまったのか。  社長専用の黒い高級車のカギをキーケースから出し、発車した。後部座席に乗った嘉哉は、唐突に庭のアジサイの話をし始めた。 「潤は庭を見たか。アジサイがきれいだろう」 「はい。鮮やかな青がとてもきれいでした。まるで、光さんの虹彩みたいですね」 「だろ? 光の瞳に似た色合いやきれいな色を見かけると、つい買ってきて増えているんだ。アジサイの花言葉は、家族団らん、寛容と言う意味がある」  ルームミラーから視線を外した。 「こういう形でもいいんだ。色々事情もあるからな」  悟ったような口調に動悸が止まらない。もしかして、自分が彼らの間柄を崩してしまったのか。 「そんな顔するな。お前のせいじゃない」  じゃあ、誰のせいだろうか。そんなことを考えながら仕事をこなした。 「お邪魔します」 「潤、来てくれたんだ。よかった、嘉哉さんから連絡が来て、本当に来るか心配だったんだ。冷めちゃうから早く食べよう」  いつもよりはしゃいでいる様子だ。食器をキッチンテーブルに並べ、ふと気づく。潤の好きなものばかり作ってあるのだ。 「まだ気付かない? 旧姓は小柳で、大学生の時に嘉哉さんの愛人になったって言う話をした気がする。ついでに、潤と同じゼミ生だったんだ」 「ああ、もしかして、私に告白してきた男子学生ですか?」  彼女がいるから、と言い断ったのを思い出した。あの青い瞳の男子学生が脳裏をちらついていたせいで、心あらずな状態になってしまいフラれてしまったのだ。淑やかでおとなしそうなのに、何とも言えない色気があって、見るたびに心かき乱されていた。  そう、自分はストレートだと思ってきたからこそ、それが揺らぎ現実を見るのをかたくなに拒んだ。いいや、もっと昔から気付いていたけれども、男女の恋愛をし、結婚するのが一人前だと思っていたから、知らぬふりをした。  しかし、同類の匂いをかぎ取った嘉哉と光によって、壊され、気付かされた。恐れにも似た感情と甘美な記憶も含んで。 「そうだよ。潤が結婚していなくてよかった」  まるで、今の今まで独身であることを望んでいたような口調だ。 「どういうつもりですか? 嘉哉さんがいるでしょう?」 「確かに愛人になったのは事実だよ。潤に告白したけど断られて、恋愛ができなくて。そう言う苦しい想いとか、潤を忘れられないと言っても、付き合おうと言ってくれたのが嘉哉さんだった。潤を見つけたと報告してくれたのも彼」 「それで、私を見て昔の恋情が再燃した、と。嘉哉さんに失礼ではないでしょうか」 「だから、それもわかった上でパートナーになったの。わかんない?」  まったくわからない。だが、一つだけ言えることがある。誰と恋愛をしていても、あの時振った光を思い出し、再会してからは嘉哉と光が仲良くしていると、モヤモヤすることもあった。今思い出せば、嫉妬していたのだろう。 「愛人ならいいですよ」  二番目でいいから愛してほしい。 「本当に? 潤、大好きだよ。ずっと前から。嘉哉さんには言わないからね、ずっと傍にいてよ」 「一つ訊いていいですか? 私と嘉哉さんどっちが好きですか?」 「一番好きな人と結ばれるのが、一番幸せなんだ」 「ズルい人ですね、あなたは」  泣き笑いしているせいで、サファイアブルーがこぼれていくような感覚を覚えた。そんな言葉一つで、納得しかけている自分がいるもの事実だ。甘いのだろうか。  嘉哉に身体を使って教えてもらった夜伽のテクをもって、がっつく光を押さえつけて、いやいやと首を振りながら、「もう欲しい」とねだる彼を無視して、愛撫を続ける。 潤は、光の汗ばんだ白磁の肌にしるしを残す。座った潤の腰をまたぎゆっくりと猛った自身を挿入しながら、涙をこぼしている。 「あっ……潤の来た」  とろけ切った声と内壁が締め付けるものだから、無茶苦茶に腰を動かしてしまいそうで怖い。 「もっと、して。潤の好きなように動いて。おっきいの、もっと欲しい」  光を敷布団に寝かせ腰に腕を回し、逃げられないようにして狭隘な肉筒に深々と最奥まで刺激する。背をのけ反らせ、快楽に喘ぐ姿は慣れているとしか言いようがないが、シーツをつかみ耐えている姿と、乾いた唇を舐める仕草に、光の様子をうかがう余裕はなくなっていた。ただ欲望のままに、腰を動かすリズムを速めている。 「あああっ、あ゛ッア゛……」 「……ッく」  いじくり過ぎて赤くはれた乳首も上気した頬も色っぽくて、無駄に煽られる。 「嘉哉さんには内緒にしてください」 「……言わないよッ」  だから、もっとちょうだいと光は濡れたサファイアブルーの瞳を輝かせ、覆いかぶさっている潤の腰に足をクロスにし、結合を深めた。  

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