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「うわーー、めっっちゃ好みの顔してんのにマジかーー、男とかないわーー、金髪青い目とか俺のドストライクじゃねえかよーー俺ハイパーノンケなんだよ無類の女好きなんだよ」
ため息を吐きたいのは俺のほうなんだが。この俺の美しい顔を見て『ない』だと? それこそありえない。
青年の顎を人差し指で小突き、顔が好みだと言うのなら、とことん利用してやろうと思いきり口角を上げて微笑む。すると、青年は「ぐぅ……顔がずりい」と眉尻を下げるからますます口角が上がってしまう。
「俺様は白金三千留 、いずれ王になる男だ。肝に銘じておけ」
「その顔でその笑顔は卑怯だろ! つーか白金ってあの白金? 白金財閥の御曹司?」
「その白金だ。俺様が名乗ったのだからお前も名乗れ」
早くしろと顎をツンツン小突くと、青年は「やめろっての!」と後ろにずりずり下がった。
「あー、俺は渋谷歩六 、高三。バスケ部エース! 好みのタイプは巨乳の金髪美女!」
「そ、そこまで聞いていないぞ、はしたないやつめ」
「はしたなくねーしちょう健全! つーかよー、白金はなにしに来たわけ。体育館に用事あったわけ? バスケットボールなんて持てませんみてーな細さしてっけど」
青い鳥を探しに来た、と言ったらこの男は、渋谷はなんと言うのだろう。「ないわー」と言いそうだ。そもそも渋谷は青い鳥の話を知っているのだろうか。
「渋谷は青い鳥を知っているのか」
「は? 青い鳥? SNSのアイコン?」
「違う。モーリス・メーテルリンク作の童話だ。とある兄妹が幸せの青い鳥を探す話だ」
「モ、モウリス、メェテリア? 初めて聞いたわー、で、その青い鳥がどーしたよ。体育館となんの関係あるわけ?」
渋谷はそう言って首を傾げる。
俺が青い鳥の話をどうしてしたのか、まるで考える気がなさそうな態度に思わず笑った。清々しいほど、なにも考えていない男だ。自分のしたいように生き、人生をとことん楽しんでいるように見える。
「俺様は青い鳥を探しにここへ来た」
「へー、青い鳥いたわけ?」
「ああ」
「マッジで? どこ?」
渋谷は黒い瞳をキラキラ輝かせ、体育館中に視線を巡らせる。どれだけ目を凝らそうと、ここには俺と渋谷しかいない。渋谷は自分が青い鳥だとは微塵も思っていないようだ。
「俺様の目の前に」
「は?」
緩やかに口角を上げ、渋谷に距離を詰める。じりじりと渋谷は後ずさりをして、てんてんてん、渋谷の手からボールが転がり落ちる。ついには逞しい背中が壁に当たった。捕まえたと笑みを浮かべ、ドンッと壁に手を突くと「壁ドンとかないわ……金髪美女ならありなのに……男とかなしよりのなしだわ」とぶつくさ呟くから、その顎を強く掴んで視線に合わせる。なしよりのなし? ありよりのありだろう!
「お前が俺様の青い鳥だ」
「いや、ぜってえ人違いだから!」
「人違いだと? お前、俺様のことを本当に覚えていないのか」
俺にとっては大事な過去でも、渋谷にとってはなんでもないこと。忘れられたくない人に忘れられ、思い出してもらえないのは、これほど悲しいものなのかと唇を噛みしめる。
「は? 俺とお前、どっかで会ったわけ。でもどんなに美形でも男に脳みそさけねーからさー、お前が女だったらな! 覚えてただろーし、今すぐ抱いてやるのに。それはもうめちゃくちゃに抱いてやるよ。つーか、マジで男なわけ? ド貧乳の女とか、実は男装しておっぱい隠してるとかじゃねーの?」
ペタッ。渋谷の両手がブレザーの上から俺の胸に触れる。あまりに驚きすぎて俺が声すらださないことをいいことに、渋谷の手はエスカレートしていく。俺のブレザーのボタンを乱暴な手つきで外して、今度はシャツの上から触ってくる。このまま放っておいたら、シャツの中に手を入れて来そうだ。
もし、俺が渋谷の言うとおり貧乳の女か、巨乳をさらしで隠す男装の麗人だったら、スキンシップの度を越した猥褻行為だと思うのだが、この男はなにもわかっていないのだろう。自分のしたいようにしているだけ。
「ッは、……満足、したか」
シャツの上からといえど、あまりにベタベタ触られると妙な気分になってくる。まるで遠慮のない手つきで、あろうことか俺の突起を探るように指先で胸元を撫でさすってくるから、噛みしめた唇から吐息が漏れそうになるのを必死に堪える。壁についていた手はすっかり下りてしまっているし、渋谷の顎を掴んでいた手も、今や女みたいに渋谷の手を弱々しく握りしめていた。なんなんだこれは、ドッキリなのか。
「いーや、ぜっんぜんしてねえ。俺は白金が貧乳女子の線を捨ててねえわけ。なー、めくっていい?」
「俺様が貧乳女子ならばそれは猥褻行為だと思うが」
「ワイセツ? んなことはねーだろ。ワイセツってもっとやらしー感じだろ」
「っめ、めくっていいと、誰が言った……ッ!」
渋谷はどこまでも乱暴だ。俺が許可をしていないのにスラックスの中に入れていたシャツの裾を引っ張り上げて、胸元を丸出しにされた。手で隠そうにも、渋谷の大きな手で両手を頭の上に束ねられてしまい、どうすることもできない。ただ顔を赤くすることしか出来ないなんて、白金の男として恥ずかしい。
まじまじと胸の突起を穴が空くほど眺められるなんて、なんの罰ゲームなんだと眉根を寄せて俯くと、渋谷のスラックスが実に窮屈そうしている。俺の胸を眺めて勃起したのか、この男は。どこがハイパーノンケだ!
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