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王を愛する男たち_02
「はっ、……っふ……ッひ、ぅっ!」
それでも千昭は俺を離してくれない。顎をすりと撫でられて唇の隙間を千昭の熱い舌で割り開かれると、くちゅりと舌裏をくすぐられる。
どうしよう、気持ちいい。頭がふわふわしてなにも考えられなくなると目を閉じそうになった時、耳殻に甘い痺れが走り、目を見開く。悪戯げに口角を上げた渋谷が俺の耳殻に噛みついて、ちゅうっと吸い上げてきた。
「っんぅ、う……ッや、ぁ……っは、……ッ」
「あー……白金すっげーエッッロい顔、青い目とろっとろでマッジでうまそ、なめてえなあ」
やめろと声を上げようにも千昭に口内を蹂躙され、口から漏れるのは情けない声だけ。目尻に溜まった涙をすりと渋谷の指先が拭う感覚にさえ、ぞくぞく快感が走る。
ちゅくちゅく、千昭に舌を吸われながら、渋谷は舌を尖らせて耳の入り口から奥までをじゅぷじゅぷと抽挿を繰り返す。さっきまでの静けさが嘘のように、車内にははしたない水音が響いている。
お前ら実は仲が良いんじゃないのか、すっかり息ぴったりじゃないか!
頭の中では二人に言いたい放題言えるのに、実際は二人に好き勝手に犯されている――それなのに、ちっとも嫌じゃない。
二人から与えられる刺激で、視界がゆらゆらと滲む。頭が真っ白になる。少しでも油断していると、すぐにでも高みに連れて行かれそうで、なにかにすがりたくて手を伸ばす。その手を千昭に絡めとられると「あ、ずりい、こっちは俺な」と渋谷にもう一方の手を掴まれて身動きがとれなくなる。すがりたくて手を伸ばしたはずなのに、これじゃあ快感から逃げられない。ビクビクと背中が、腰が、足が震え上がり、二人の手を握りしめていないと崩れ落ちてしまいそうだ。
「っっんんぅ……ッ! ふ、ぅーーっ……ふ、はッ……も、や、めろ……っ」
ぢゅる、と千昭に唾液ごと舌を甘く吸われ、ぢゅぽんと渋谷の舌が耳の奥から一気に引き抜かれた。
深いキスをされて、耳を舐め回されただけだ。たったそれだけのことで、どうして俺は下着を濡らしてしまっているのだろう。じわりと先走りが下着を汚していることに気づかれたくなくて、太腿を擦り合わせながら二人の手を振りほどいて背もたれに倒れ込む。
ほんとうに危なかった。キスと耳だけでイかされるところだった。
呼吸を整えようと何度も深呼吸をしていると、千昭と渋谷は飽きもせずに俺をにやにや見つめてくる。お前らやっぱり仲が良いだろうと睨み、太腿を小さくもじつかせながら「……信号、青だぞ。早く出せ」と呟いた。
「もう少しでミチルのことイかせてあげられたのに空気が読めない信号だよね」
「それなー、白金パワーで赤信号にさせられねえの」
「白金パワーならなんでもできそうだよね。ミチルがえっちしたくてたまらなくなる薬とか開発してくれないかな」
「なにそれ今すぐ開発してほしーんだけど!」
「お前ら品がないぞ! そもそも、さっきまでは険悪だっただろう!」
ついさっきまで険悪な雰囲気出していただろう、あれはなんだったんだ?!
千昭と渋谷は一瞬顔を見合わせると、なぜか微笑み合ってからいっせいに俺へと視線を向けてくる。熱の孕んだ瞳にごくりと喉を鳴らしてしまった。
「俺以外がミチルに触るとか無理って思ったけど、渋谷くんも一緒に触ってるとミチルがいつも以上にとろとろになるからこれはこれでありかな。もちろん俺のほうがミチルをとろとろにできるけど」
「それな! 俺も嫉妬の権化になりそーって思ったけど、チアキならちょっとありだわ。俺じゃ引き出せねー白金のエロい顔、引き出してくれるし。俺しか引き出せねえ白金のエロかわいい顔もぜってーあるけどな!」
「……も、もういい、頼むから黙れ、王の命令だ」
額に手をついて、二人から視線を外す。
これ以上二人の熱っぽい瞳に見つめられたら、それだけでイッてしまいそうな気がしたからだ。
「王様の照れ屋なところ、好きだよ」
「わかるー恥じらう白金、くっそエロいよな」
どうして渋谷はすぐに性へと直結するんだ。性欲よりも優先すべきことがあるだろう。欲求に忠実なところは渋谷のいいところであり、欠点でもある。
イきそうな体を誤魔化すために窓の外を眺める。ちょうど渋谷と出会った公園を通り過ぎた。こうやって車の中から眺めてばかりで、あの公園には久しく行っていない。渋谷と歩けば、なにか思い出してくれるだろうか。今度、渋谷を誘ってみるかと今度こそ目を閉じた。
「ミチル起きて、着いたよ」
「……ん、すまない、眠ってしまった」
千昭が後部座席の扉を開けた音でゆっくり目を開ける。夢を見ることなく仮眠したおかげで少しだけスッキリした。それでも立ち上がる気力がなかなか起きず、千昭の首へと両腕を回す。照れ屋だの、恥じらいだの、さんざん言われたが、王に照れや恥じらいなどないということを見せてやろうと口角を上げた。
「千昭、俺様をベッドまで運べ。これは王の命令だ」
どうだ、恥じらいなどないだろう。
誇らしげに笑みを向けたけれど、千昭は「それは誘ってるの? 今日は抱きしめて眠るだけにしようと思ったんだけど」俺よりも何枚も上手だ。ぶわっと頬が赤くなり、ふるふると首を横に振る。
「そ、ういう意味ではない!」
「なんだ、残念だなぁ。渋谷くん、ミチルの鞄とか持ってくれるかな」
「えー、鞄より白金持ちてーんたけど」
「それはだめ。王様は俺に頼んでくれたしね」
千昭に何度も姫抱きされているけれど、やっぱり慣れない。姫抱きしろとは一言も言っていないのに、どうしていつもこの運び方なんだろう。それでも、千昭がどこか嬉しげに俺を抱き上げるからやめろとは言えず、王らしく素直に運ばれてやることにした。
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