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青い鳥は王とイチャつきたい

「歩六、ナイッシュー! マジで歩六冴えてるな!」  シノブからの的確なパスを受け、ゴールを決める。駆け寄ってきた部員たちとハグを交わし、最後にシノブと思いきりハイタッチ。  シノブの言葉どおり、最近の俺はマジで冴えている。どんな体勢からでもゴールが決まる。どれだけコートを走り回っても疲れ知らず。後輩たちには「インハイ前だからあゆさんマジ冴え渡ってますねー」キラキラした瞳で見つめられるが、それはちょっと、ものすごく違う。  もちろん、インハイ前だから興奮している。でも、俺の頭をもっとも占めているのは、ちょっと前までの俺だったら考えられないだろう、たった一人の男――百花に君臨する美しい王様、白金三千留。  最初は、頭おかしいんじゃね? と思った。だって、「お前が俺様の青い鳥だ」なんて言ってのけちゃう男を頭おかしいと思わないでなんて思えばいい?  ドストライクな美貌の持ち主だというのに、男な時点で気分はもう萎え萎え。顔と乳首だけはありよりのあり、それ以外はなしよりのなし。白金はそういう存在だったはずなのに、しょんぼりと落ち込んだ顔を見ていると「元気にしてやりてー」と思ってしまった。俺がこいつを笑顔にしてやりたい。あの可愛い笑顔を見たい。なんとか慰めた末に俺に見せてくれる笑顔の可愛さったらない。世界中の可愛いを集めても敵いそうにないレベル。そう思ったのが運の尽き。俺はあっという間に白金三千留という沼に落ちていた。 「まーな! 今の俺マッジで無敵だから!」 「さっすがエースだわー頼りにしてるぜ」 「部長様のナイスアシストもマッジで期待してるからなー、シノブも最近調子いいじゃん? 彼女でもできた系?」 「俺のことはいいだろ!」 「おっ? 今話逸らしただろ! これは彼女できたんじゃねーの?!」  シノブの肩に腕を回して、みんなで笑い合う。シノブも笑いながら「おら、部活再開すっぞー」と手を叩く。シノブの一言でいっせいに走りだす俺たちはマジでよく訓練されたバスケ部員だ。  絶好調すぎてちょっと怖い、なんて思わないのは俺の長所。ラッキーな俺の元には自然とより大きな幸福が舞い込む。なんてたって俺には王様――ついでに王様の盾ことチアキもついている。  初対面の時は、バチバチ火花を散らしたチアキとは今やラインのやりとりを馬鹿みたいにしている仲だ。俺は学校での白金、チアキはそれ以外での白金を写真に撮って送り合いをしたり、ただただ馬鹿話をしたり、たまーに真面目な人生相談に乗ってもらったり、今度白金とどういうプレイがしたいか、白金がいたら言えそうにない下世話な妄想をやりとりしたりしている。正直ちょう仲良しだ。好きな人が同じで、こんなに仲良くなれることってほぼないんじゃねーかってレベル。  一対一で向き合うのがふつうの恋愛だとすると、俺たちのカタチはどう考えてもふつうじゃない。もちろん白金を俺だけのものにしてーと思う。ふつーに。でも、三人のほうがいいこともある。  たとえば、二人で白金を攻めるとどちゃくそ可愛い。あっちもこっちも攻められて、きれいな青い瞳からとろとろの涙をこぼす姿を見ているだけで元気になりすぎて困る。いつか二輪挿しがしたいと言ったら、ものすごく怒られそうだ。むしろ「二輪挿し? 生け花でも始めるのか?」と首を傾げられそう。くっっそ可愛いな。想像だけで抜ける。  あーあ、白金抱きてえ。初めて抱いた日から、一回もしてねーとかなんつー苦行なわけ。チアキとラインをして「ミチルはセックス初心者である前に、恋愛初心者なんだよね。毎日でも抱き倒したいんだけど、壊れたらいけないからしばらく我慢しようか」「血の涙がでそうだけど白金のために我慢するわ」「ほんとそれね。血の涙でちゃうよね」しばらく我慢することに決めたけど、マジで血の涙がでそう。  前は、おっぱいデカい女でしか抜けなかった。今や白金でしか抜けないとか、人生なにかあるかわかんねーなマジで。 「あそこにいるの三千留様じゃね?」 「マジだーー夏休みになっても会えるとかラッキーだわー今日もお美しいわぁー」 「部活終わりに白金三千留見るとへとへとな体がギンギンになるわー」 「変態かよ!」  三千留様。お美しい。ギンギンになる。  後輩たちが発した単語に思いきり肩がはねる。ごまかすために大きく伸びをしながらも、どうにか自然なそぶりで後輩たちの視線の先を辿った。  白金は理事長っぽいおっさんになにやら説明しながら廊下を歩いている。  あー、びっくりするぐれー美人。薄くてピンク色した唇に吸いつきたい。つーか、乳首と同じ色じゃね? エッッロ。白金の唇を見てるだけでムラムラすると思ったけど、そういうことだったのかよ納得!  来週になったら、インハイで沖縄に行くことになる。もちろん楽しみだけど、しばらく白金とは会えない。物理的に届く距離にいないとやっぱり寂しくもある。抱きしめたり、キスしたり、エロいことしたい。俺は欲望に素直な男だから――思い立ったら大吉。あれ、ちょっと違ったか? まあなにはともあれ、目の前に愛してやまない男がいるのなら、話しかけなきゃ損だ。 「つーか最近三千留様エロくなったと思わねー?」 「それな!! 上品さの塊みてーな美人だったのに、エロさまで加わってマジ無敵」 「なんかさ、処女じゃなくなったレベルでエロい」  お前ら、白金のことエロい目で見すぎじゃね? あいつ、俺のだからな! 正確には俺とチアキのか。しかも処女じゃなくなったとかわかるのやべーな!  昇降口へと向かう後輩たちをじっとり睨みながら、ぽんっとシノブの肩を叩く。「俺カラオケパスするわ、シノブたちで楽しんで来いよ!」後輩たちにも聞こえるように大きな声で言う。「えっあゆさん行かないんすか?」ざわつく後輩たちにぶんぶん手を振ってから、踵を返して白金の元へ走り出した。

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