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それでも母を憎めなかった。それどころか、自分が母に何もしてあげられない、ただの無価値な存在だったことが申し訳なかった。
自分がいなければ、母は幸せになれたのかもしれない。ちゃんと一人の人を愛せたのかもしれない。彼は自分になんの価値もないことを知り、劣等感に苛まれた。
ある日、彼が学校から帰ってくると母の姿がなかった。
買い物にでも行っているのかもしれない。そう思って待ち続けるも、いつまで経っても帰ってこない。
とうとう自分は愛想をつかされてしまったのだ。でも母は何も悪くない。母が与えてくれた分の見返りを、自分が返せなかったのが悪い。
そしてその日を境に、母は帰ってくることはなかった。
「――彼はその後、親戚のもとで高校を卒業するまでの間暮らしました。義理ですが兄もできて、色々な意味で良くしてもらいました。高校を卒業してから母を探しにこの界隈に来て、ここで暮らすことを決めたのです」
ハルヤが自嘲的な笑みを浮かべる。
外から鈴を鳴らすような音が聞こえ、「時間ですね」と言って眉尻を下げた。
「僕の話、退屈じゃなかったですか? あなたの問の答えに、少しはなっていましたか?」
じっとこちらを伺う視線に少しだけ、松原の胸がざわめいた。
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