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「……参考になった」
「それは良かったです」
ハルヤは満足そうに笑みを浮かべて立ち上がる。松原も立ち上がると、ハルヤが正面に立って松原の緩めていたネクタイに触れる。
「センスが良いんですね。僕もこの色、好きです」
落ち着いたワインレッドのネクタイは、得意先にしていく用の物だ。色を使い分けることによって、相手の印象を変える要素にも繋がる。松原はハルヤの綺麗な指先がネクタイを締める姿に、少しばかし狼狽えた。
間近で見たハルヤは想像以上に艷やかで、綺麗だった。
伏せた目元から漂う色香。薄っすらと笑みを浮かべた小さな口元。白い肌が着物の襟元から覗き、同じ男の象徴の喉仏がある首元に繋がっている。嫌悪は沸かない。それどころか、その白い喉元に触れてみたいという欲がせりあがった。
ハルヤが松原の胸にぽんと手を置いて「これで大丈夫です」と言ったことで、松原はきまり悪く視線を逸らす。
「お気をつけて。また、お待ちしていますね」
玄関までついてきたハルヤは、そう言って松原を見送った。もう松原が来ないと分かっていても、そう言うのが業界の習わしみたいなものなのだろう。
松原はあえて返事はせずに、その場を立ち去る。
白い光と卑猥な光が入り交じる世界から、来た時とは違った何とも言い難い思いを抱え、松原はこの界隈を後にした。
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