21 / 136

21

 まさか裕介が、自分を探しに来るとは思ってもみなかった。  いつもどおり、キミヨに客だと言われて春夜が部屋に行くと、スーツ姿の裕介の姿がそこにあったのだ。五年ぶりの再会に、春夜は何の感慨も沸かなかった。それでもさすがに、戸惑いは隠せない。  凍りついたように動けなくなっていた春夜に「おい、客をほったらかしか」と言って裕介は口元を歪ませた。  お金を払っている以上は、客であることには変わりない。春夜はぎこちない愛想笑いを浮かべて部屋に入った。 「隣の部屋へ」  そう言って、両開きの襖を開けると裕介を中へと誘う。  薄暗い部屋の正面には、二脚敷かれている真紅の羽毛布団。淡いオレンジ色の光を放つ行灯(あんどん)。左手にある内風呂に続く障子には、伸びた影が映り込んでいる。 「湯はこちらに」  春夜は淡々とした口調で告げる。裕介から上着を受け取り、タオルと浴衣を手渡す。 「なんの躊躇(ちゅうちょ)もないんだな」  そう言い残して裕介は、障子を開けて中へ入っていく。

ともだちにシェアしよう!