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「……そういうプレイは他をあたって」
左右に視界が飛ばされる。何度も叩かれた頬は麻痺しているのか、痛みが激しい熱に変わっていく。
腫れたら客が取れなくなる。自分の価値が下がってしまう。ただそれだけが、不安で仕方なかった。
気がつけば春夜の首を締めながら、果てた裕介は悪態を吐きつつ服を着ていた。
「駅まで送れ」
吐き捨てるように、布団でむせ返る春夜に告げた。
「……そういうサービスはしてない」
絞り出すような声で、春夜は言った。今までにも理不尽な客もいたが、暴力沙汰にまでなったのは初めてだった。
「いいから、さっさと着替えろ!」
怒鳴り声を上げる裕介に、春夜は渋々重い体を起こした。これ以上ここで面倒を起こされたら、辞めさせられるかもしれない。行くあてのない自分の居場所は、ここしかないのだからそれは避けたかった。
春夜は緩慢な動きで身支度を済ませると、キミヨに「駅まで出てくる」と言い残して店を出た。
先に出ていた裕介に近づくと、途端に春夜の腕を強く引き歩き出す。
「お前のために俺がわざわざ、こんな場所に足を運んでやったんだ。逃げようだなんて思うなよ」
裕介は苛立だしげに腕を強く引き、一向に春夜を開放する気配がない。気がつけば、駅の近くまで来てしまっていた。
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