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「……僕を助けたって、あなたには何の得にもならない。こんな人通りの多いところで、男を買っていると周囲に好奇の目にさらされるだけで……万が一、知り合いにでもあったりしたら――」  春夜が顔を上げると同時に、ハンカチを口元に当てられ思わず口を噤む。 「そんだけ喋れれば、傷は浅いようだな」  険しい表情と少し固い口調。対象的にハンカチを当てる手の動きは、労るように慎重だった。松原の行動に、春夜は訝しげな表情を向ける。 「助けるのに理由は必要なのか?」  ハンカチをポケットに戻しつつ、松原が困ったように口元を緩める。 「それより、あれは常連客かなにかなのか? それとも知り合いなのか? 君を違う名前で呼んでいたようだが――」  そこで松原は口を噤むと、自らの口元に手を当てた。 「……ああ、プライベートなことは言えなかったんだったな」  黙り込む春夜に松原は「酷いようなら職場を変えるのも検討した方がいい」と言って背を向けた。  動き出した背に、春夜は唐突な心細さがこみ上げる。 「……――」  気づけば立ち去ろうとする松原の腕を、春夜は掴んでいた。怪訝そうな表情で振り返った松原と視線が交わる。 「……お礼をさせてください」  春夜は掴んだ手に力を込めた。

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