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「約束してたからな。案内してくれ」
驚きのあまり、キミヨも春夜も一瞬呆気に取られる。
「お客さんが良いなら構いませんがねぇ。ただ、あいにく満室なものでしてな」
キミヨが気を取り直して口を開き、困ったように眉を顰める。今日は金曜日ということもあって、客が多いのは確かだった。
「……僕の部屋を使う」
春夜はそう言って雪駄を脱ぐと、松原を促す。キミヨが小言を言い出さぬうちにと、松原の腕を引くとさっさと春夜は歩き出した。
客を相手にするのは基本的に二階で、一階に客を招くのは異例のことだ。
薄暗い廊下を終始無言のまま進んでいく。
ここで寝起きするのは春夜ぐらいなもので、他の従業員は公私をきっちりと分けている。
従業員は五名ほどいるが、個人商売みたいなものなので、あんまり関わりが少なかった。シフトも自由で、予約がない限りは基本的に入っても入らなくてもいい。
顔を合わせれば話もするし、仲が悪いわけではないけれど、どこか一線を引いていた。
春夜は自分の部屋の襖を開き「どうぞ」と言って、松原を中に促す。
中は六畳ほどの広さの畳の部屋だ。箪笥にちゃぶ台、小さな本棚、テレビ、部屋の隅に畳まれている布団。狭い部屋に押し込まれるように、それらが鎮座していた。
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