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「助けていただき……ありがとうございました」  沈黙を避けるように、春夜は謝辞を口にして静かに頭を下げる。 「迷惑だったんだろう」  さっきの春夜の悪態を思い出したのか、松原が目を眇める。 「……いえ」  そうじゃないと言いかけて、春夜は言い淀んだ。 「余計なお世話だったと、言われてしまえばそれまでだが――」  松原はグラスに視線を落としている。流れて底に溜まっていく泡が、ぱちぱちと弾けては消えていく。 「俺は君が、もしかしたら困っているかもしれないと思ったから助けただけだ」  淡々とした口調と他意の感じられない表情。真面目な彼だからこそ、何も顧みずに助けてくれたのだろう。春夜は松原をじっと見つめた。  泡だけになったグラスを松原が口にしたことで、唇の端に白い泡がつく。本来なら間抜けにも見えそうなものなのに、どこか扇情的に感じられた。男らしいやや厚めの唇に、視線が吸い寄せられていく。  春夜は少し上体を伸ばし、松原に顔を寄せる。自らの唇を寄せ、優しく舌で舐め取った。舌先に触れたほのかな苦さが次第に口の中を満たす。  松原は虚を突かれたような表情で春夜を見つめ、すぐに眉を顰めて視線を逸らした。嫌悪を滲ませた表情に、春夜は自分のしたことの間違いを思い知らされる。胸が痛んだ。

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