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「すみません。男は趣味じゃなかったですね」  春夜は取り繕うように口を開く。 「……いつもこんなことをしているのか」  松原の低く、冷たい声音に胸がキシキシと音を立てる。 「……いえ」  本当にこういったことはしない。それ以上のことはしているけれど――  春夜が積極的に唇を寄せるのは布団の上だけで、行為に対する開始を意味する合図のようなものだった。何の考えもなしに、顔を近づけたのは自分でも正直驚いていた。 「……初めてです」  怪訝そうな視線を向けられ、春夜は困惑気味に笑みを浮かべる。 「驚いています。自分でも」 「キスは禁止なのか」  真顔で見当違いの発言をする松原に、春夜は思わず小さく笑った。 「そうじゃないんです。あなただったから――」  そこで春夜は、ハッとして口を閉ざす。恋愛が禁止されているわけじゃないが、客に本気になって痛い目を見る人間は多く見てきた。  それでも一度だけ、春夜は惚れそうになった人がいた。その人は転勤を機に、二度とここに足を運ぶことはなくなった。  無駄な期待はするもんじゃない。自分は商品であって、飽きられればそれまで。たとえ気に入られたとしても、それ以上の何かがあればそれで用済みとなる。

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