38 / 136

38

「家族で食事することも少なかったしな」  何かを思い出すように、松原が自嘲気味な笑みを零す。その横顔は、真面目で堅実そうな印象を打ち消すような憂いがあった。  松原の過去も孤独を感じる、何かがあったのだろうか。 「孤独って……どうやったら癒えるんですかね」  春夜はそう言って、箪笥の上に置かれた空っぽの金魚鉢に視線を向けた。 「金魚を飼っていたのか?」 「ええ。もう死んでしまったんですが、二匹ほど」  思いの外、興味津々な様子の松原を少し意外に思いつつも、春夜はお客さんから貰ったことがあると告げた。 「近くの神社でお祭りがあったらしくて、そこで金魚すくいをして持ってきてくれたんです。僕が何か飼ってみたいって言ったのを覚えててくれたみたいで――」  そこで胸が鷲掴みにされたように苦しくなった。思わず胸に手を当て、感傷に浸りそうになってしまう。  松原の手前それではいけないと、無理やり笑みを生み出した。形ばかりでも笑みを作りさえすれば、相手は深入りはしてこない。

ともだちにシェアしよう!