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「家族で食事することも少なかったしな」
何かを思い出すように、松原が自嘲気味な笑みを零す。その横顔は、真面目で堅実そうな印象を打ち消すような憂いがあった。
松原の過去も孤独を感じる、何かがあったのだろうか。
「孤独って……どうやったら癒えるんですかね」
春夜はそう言って、箪笥の上に置かれた空っぽの金魚鉢に視線を向けた。
「金魚を飼っていたのか?」
「ええ。もう死んでしまったんですが、二匹ほど」
思いの外、興味津々な様子の松原を少し意外に思いつつも、春夜はお客さんから貰ったことがあると告げた。
「近くの神社でお祭りがあったらしくて、そこで金魚すくいをして持ってきてくれたんです。僕が何か飼ってみたいって言ったのを覚えててくれたみたいで――」
そこで胸が鷲掴みにされたように苦しくなった。思わず胸に手を当て、感傷に浸りそうになってしまう。
松原の手前それではいけないと、無理やり笑みを生み出した。形ばかりでも笑みを作りさえすれば、相手は深入りはしてこない。
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