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「俺も家でベタを飼っているんだ」
「ベタ?」
「ああ。熱帯魚なんだが、飼いやすいし人懐っこい。なにより雄の尾鰭が大きくて、優雅なんだ。つい時間を忘れて、見とれてしまうほどの存在感がある」
頬を緩ませ、松原は饒舌にベタについて語っていた。一見すると、真面目で仕事一筋そうな印象の彼が夢中になるぐらいなのだから、よっぽどの魅力を兼ね備えているのだろう。
「そんなに綺麗なんですね。僕も見てみたい」
ふと本音が口をついて出た。世辞ではなく、本当に見てみたかった。魚が人に懐くという点もとても気になる。
「それなら、見に来るか?」
松原の突拍子もない発言に、春夜は信じられない気持ちで目を見開く。
松原ははっとしたように「さすがに客と店外で会うのはまずかったよな」と言って、きまり悪そうな顔をした。
「ち、違うんです。そんなこと、今まで言われたことなくて……」
思わず松原の手の甲に、自分の手を重ね合わせていた。高い温度が掌から伝わり、妙に胸が激しくざわめき出す。少し食い気味になったせいか、松原が気圧されたような表情で見つめ返してくる。
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