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「嫌ですよね……すみません」  春夜は慌てて手を離した。いつもはこんな風に、積極的になることはない。でも松原からしてみれば、手を触るだなんて媚びているようにしか思えないだろう。  たとえ春夜がそのつもりじゃなくても、他人の目から見た自分はいつだって、体を売って金を稼ぐ人間なのだ。自分が普通に恋愛しようなどとは、考えてはいけない。 「……媚売ってるみたいで、自分でも嫌になるときがあるんです」  松原の顔を見れず、春夜は視線を空っぽの金魚鉢に向ける。なにも入っていない。何の役にも立てていない。まるで自分のようだった。 「でも……僕はこの身で奉仕する以外、なんの取り柄もない。今までもそうやって生きてきた。これから先も……きっと、そうやって生きていくしかないんです」  松原に言っているというよりも、自分に言い聞かせるように、春夜は言葉をこぼす。 「あなたもきっと、こんな僕を内心は軽蔑しているんじゃないんですか?」  視線を松原に移し、春夜はわざとらしい笑みを浮かべる。松原は険悪そうな表情で、視線を落としていた。

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