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「あんたまさか、肩代わりしようとしてたんじゃないだろうね」  キミヨの小言が、今は耳に入ってこない。それ以上に、松原がこっそり金を払う為にトイレを借りると言ったのだと気が付き、胸の奥が真っ赤に染まっていく。  なんでそんなことをしたのか。自分を抱きもしない癖に――  何も分かっていない。何も返せない人間に、与え続けることの残酷さが。 「いくら抱かない客だからって、金がしっかり払えないんだったら――」  そこでキミヨが、一瞬黙り込んだ。 「……早く部屋に戻んな」  帳簿をつける台の前に腰を下ろしたキミヨは、それ以上は何も言ってこない。  気づけば憤りと不甲斐なさに、目に膜が張っていた。全身が震え、堪えるように掌を握り込む。揺らぐ視界に店の白い光が、霧のように覆っていく。  持て余した感情を振り払うように、春夜は袖で瞼を拭った。

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