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松原は仕事の折を見て、斉木を飲みに行こうと誘った。
自分から誘うことは滅多になく、付き合いは七年ほどになるのに、指で数えるくらいの回数しかない。
案の定、斉木も心底驚いていて、普段は見せないような働きっぷりで仕事を終わらせていた。いつもそうすれば、彼も優秀なのだからすぐにでも出世するはずだと、松原は苦笑する。でも斉木は出世よりも、今の状態維持を望んでいるようだった。
出世すればするほど面倒なことが増えると言って、一定の営業成績に留めていると自慢げに語っていた。会社の上層部が聞いたら、卒倒してしまうだろう。
「松原から誘ってきたということは、悩みがあるからだろ。俺から誘わないと、一緒に飲んでくれないもんな」
居酒屋の半個室で向かいに座っている斉木が、拗ねたようにビールジョッキに口をつけていた。松原も同時に付けたビールを決まり悪く飲み下す。
「そうだお前……もしかして――」
不意にビールを吹き出すように、斉木がジョッキをテーブルに乗せると身を乗り出す。
「結婚するのか!」
「なんでそうなるんだよ」
まだ何も言っていないのに、見当違いも甚だしい。
「もう俺たちも三十だからな。そろそろ決断しないと」
斉木の脳裏に彼女の顔が浮かんだのか、僅かに口元を緩ませ肴の枝豆を口に運んでいる。
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