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「両親が共働きで、俺は一人っ子だったんだ。それは別にどうってことはない。寂しさもあったが、二人が働いているから塾に行ったり、お小遣いを周りより多く貰えているんだって分かってたからな」 「子供のときから松原は達観してんな」  斉木の言葉に松原は自嘲して、乾いた喉をビールで潤す。 「両親が顔を合わす度に喧嘩するようになったのは、確か中学生ぐらいの時だった。高校受験に向けて、遅くまで勉強してて両親の帰宅にも気づけた」  皮肉なもんだよなと言って、松原は枝豆に手をのばす。斉木はどこか居た堪れないといった様子だ。 「親父が……夜の女に入れ込んでいたらしくてな。母はそれが許せなかったらしい。俺が高校に入学して、一年経った頃に両親は離婚した。」 「……そっか」 「俺は母親に引き取られて、大学卒業までは一緒に暮らしてたんだ。母は看護師だったし、慰謝料もあったから金には困らなかった。生活も今までとは何も変わらない。でも、母はよっぽど許せなかったらしくて、親父の悪口ばっかり言ってた」 「そりゃーお父さんだって、息抜きしたいときもあるだろう。誠実さにはかけるかもしれないけど」  そう言って空になったジョッキを見た斉木が店員に声をかけて、ビールを頼んだ。

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