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「そうだな……本当に自己中心的な考えだと思う。君を抱きたい。でも抱いたら手放せなくなりそうで、怖いんだ」  松原の回していた腕に力が籠もる。何も分かっていない松原が憎かった。自分の価値は身体しかないのだ。それを拒まれてしまったら、もう自分は無意味な存在。 「……わけが分からない。なんで僕なんですか? あなたにとって、僕は軽蔑の対象でしょ。あなたに好かれる理由が分からない」  春夜は松原の胸を押し返そうとするも、松原に強く抱きすくめられていて身動きが取れなかった。悔しさに唇を噛み締める。 「恋愛は理屈じゃないらしい」  ふっと松原が笑う。 「俺のことを、魚バカだって言う同僚に言われて気づいたんだ。今までの自分の中の価値観が変わってしまうぐらいに、君のことが気になって仕方がないんだ」  それだけじゃ、答えにならないかと言って松原が春夜の顔を覗き込む。 「でも僕はあなたにとって、プラスになることは何もない」 「そんなことは関係ない。君に恩を返してほしいからという理由で、この金魚を買ってきたわけじゃない。俺が勝手に君にあげたいと思って買ってきただけだ」 「なんで……そこまで……」  どうしても分からなかった。何故、松原が自分にそこまで好意を抱けるのだろうか。

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