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「ここから離れたくないんだろう? だったら、俺がここに来ればいい」  本意ではないせいか、自ずと表情は険しくなった。本当だったら、ここを辞めてほしい。でも彼が感情を荒げてしまうほどに、それを拒否している。これ以上、自分の我を通そうとすれば、二度とハルヤに会えなくなるかもしれなかった。 「なぜ……そこまでして……」 「言っただろう? 俺は君が好きなんだ」  ハルヤは表情を曇らせ、黙り込んでいる。 「客として来るのもだめなのか?」  ここまで何かに固執するのは、熱帯魚以来のことだった。自分でも驚きだったが、好きであることは変えようがない。 「それは……」  ハルヤは逡巡するように、俯いたままだった。 「月に一度でも良い。俺に抱かれたくないんだったら、こうして金魚を一緒に見るだけでもかまわない」  松原は緊張のせいか少し汗ばむ手で、背広から名刺を取り出した。 「何か困ったことがあったら連絡してくれ。どんなことでもいい。餌がなくなったとか、金魚が元気がないとか」 「結局は金魚なんですね」  ハルヤが少し呆れたような表情で、松原から名刺を受け取った。受け取ってくれたことに安堵し、松原は肩の力を抜く。 「一番は君に会いたいからだ。それに以前、君は男に絡まれたことがあっただろう。危険な目に遭わないか心配なんだ」  ハルヤの表情が瞬時に曇った。やはりハルヤにとって、あの男の存在は厄介なのだろう。他の男に抱かれる嫉妬心に加え、ハルヤの身の安全も心配だった。 「……ご心配には及びませんので」  そう言ってハルヤは、取り繕うような笑みを浮かべる。なかなか心を見せないハルヤに、松原はやるせない気持ちで拳を握った。

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