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 どうしてキミヨが他の子を薦めているのか、理解できずに春夜は口を閉ざしたまま立ち尽くした。 「いや、俺はこいつに相手してもらいたいんだ。待てというなら、いくらでも待つ」  引く様子のない裕介に、キミヨは眉を寄せた。 「それは困りますね。いつまでもここで、突っ立っていられても困りますんで。生憎、従業員が少ないものでしてね。この子の部屋もまだ片付いていないものでして。今日のところはお引き取り願えませんかねぇ」 「他の部屋を使えば良いだろう」 「それは出来ませんね。従業員各自に与えられた部屋で、客をもてなす。それがここの決まりなんですよ」  キミヨはしれっとした口調で、嘘を吐いた。そんな決まりはなく、基本的には空いている部屋を使っていた。  嘘を吐いてまで一歩も引かないキミヨに、春夜は鼻の奥がツンと痛くなった。それでも自分の為じゃないはずだと、慌てて甘えた思考を振り払う。  以前にも裕介が来て自分を殴ったのだから、キミヨが厄介な客と思っていてもおかしくない。また殴られたりして、表に出られなくなるのは困るぐらいにしか思ってはいないはずだ。 「おい。こっちはこいつの為に、こんな場所に足を運んでいるんだ。部屋が使えないなら、こいつを他の場所に借りていく」 「それはいけませんね。あんまりことを荒立てるようでしたら、こちらも手を打たなきゃなりませんがねぇ」  キミヨの一言に、裕介は苛立ったように顔を顰めた。

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